『パラサイト』と見比べたい 貧困と犯罪を描いた映画

◆ある女流作家の罪と罰

編集K 私が最近観た中で面白かったのは『ある女流作家の罪と罰』(A)という映画。生活に困った売れない作家が、有名人の手紙を偽造するというストーリーの作品。

 主人公はめちゃくちゃ偏屈で性格が悪いんですが、持ち前の才能を活かして犯罪を成功させるうちに、どんどん人生が充実してくるんです。ラストの展開にも驚き。

編集T 主人公が性格悪いというだけで興味がそそられますね。自分とまったく異なるキャラクターの人生を追体験できるというのが、映画やドラマの魅力のひとつだと思っているので、実生活では絶対に友達にならないであろう人とか、現実では出会えないような職業に就いている登場人物が出てくると、わくわくします。人気コメディ女優のメリッサ・マッカーシーが主演なのに、日本では未公開だったんですね。チェックしなくちゃ。

◆バーニング 劇場版

編集T 犯罪映画として紹介していいのかわかりませんが、村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を、韓国の映画監督イ・チャンドンが映画化した『バーニング 劇場版』(A)も大好き。小説家志望の青年が、幼なじみの女性と再会したことをきっかけに、奇妙な事件に巻き込まれてゆくミステリーで、若者たちの分断と破局を静かに、そして美しく描く手腕はさすがの一言です。

 米国アカデミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』も、『バーニング』と同じように、格差社会をテーマのひとつにしているのですが、『パラサイト』のほうは爽快感すら味わえるのに対し、『バーニング』は、静かな地獄が映画全体を覆い尽くしているんですよね。韓国を代表する監督ふたりが描く“貧困”を見比べるのもおすすめです。

編集K 『バーニング』、いいですよね!! イ・チャンドンは『オアシス』も『ペパーミント・キャンディー』(ともにA)も大好きです。イ・チャンドン作品は、貧困や障害、差別など、さまざまな苦しみに満ちているから、観ていると辛くてたまらないんですが、その苦しみの中にしか生まれ得ない人生の美しさや、純粋な愛には心が震える。次回作も絶対に観ると思います。

2020.06.10(水)
文=CREA編集部