コーヒーを味わうための
スペシャルな空間

 初めて足を踏み入れた瞬間、ヴォーンさんが心を奪われたという羽當の店内は、重厚な木の質感を感じさせる机や椅子に、アンティークの装飾品や絵画などが飾られた、レトロで味わい深い空間。

店内でもとくに目を引く植物のアレンジメントは、バリスタがセレクトし、定期的に飾り変えるというこだわりよう。

「最近のコーヒーチェーン店の内装はとてもシンプルなものが多いですが、ここにはオリジナリティ溢れるインテリアが揃っていて、見ているだけでもワクワクするんです。こんなスペシャルな空間の中で、ゆっくりとコーヒーを味わう文化が日本に存在することに感動します」

一杯のコーヒーから垣間見える
日本のこころ

 「10歩進めばカフェにあたる」と言われるほど、街のあちらこちらにカフェがあり、コーヒーが人々の暮らしに浸透しているメルボルンで生まれ育ったヴォーンさん。そんな、世界屈指のカフェの街からやってきた彼は、日本のコーヒー文化をどのように捉えているのだろうか。

美味しいコーヒーはもとより、バリスタとの会話を楽しむこともまた来店の楽しみのひとつ。

「日本には、喫茶店からチェーン店まで、さまざまな種類のカフェがありますが、どのお店も、一杯のコーヒーにかけるサービスがとても丁寧だと感じます。例えば、メルボルンはコーヒーの美味しい街として有名ですが、ラテを頼んだとしたら、まずエスプレッソを淹れる人とそこからラテに仕上げる人が別の場合もあって、一杯に数名の担当がついて流れ作業で慌ただしくコーヒーを淹れる光景をよく見かけます。そういう点で、目の前にいるお客さんのために、1人のバリスタがつきっきりでコーヒーを仕上げる日本のサービススタイルには、とても親切な心遣いを感じます」

左:ゆっくりと時間をかけて、丁寧にネルドリップするバリスタの姿を眺めながら、コーヒーができ上がるのを待つ時間も味わい深い。
右:店内の棚には、それぞれデザインの異なるカップ&ソーサーがずらり。400客近くあるというアイテムの中から、飲む人の雰囲気に合ったカップをバリスタがチョイスしてコーヒーを注いでくれる。

2017.04.19(水)
文=中山理佐
撮影=佐藤 亘