#085 Istria Peninsula
イストラ半島(クロアチア)

灯台守のおじさんと二人きりの夜を過ごす

中世の名残が薫るイストラ半島のロヴィニ。ボートに満載された家族連れらしき人々。

 クロアチア北部にあるイストラ半島は、日本であまり馴染みがないけれど、旅先としての魅力の宝庫。ギリシャ神話のアルゴー船の伝説でも、黄金の毛皮を奪ったヤゾンを追ってイストラ半島へたどり着いたコルヒダの人々が、故郷に帰るのをやめてしまったとか。

 海岸線の町々では、ケルト、古代ローマ、ヴェネツィア、オーストリア・ハンガリー帝国、いくつもの栄光の文明が育まれ、その残影をあちこちに見ます。

サンセットクルーズのボートに相乗りさせてもらい、灯台へ。

 クロアチアでは12カ所の灯台に宿泊できるのですが、そのひとつがイストラ半島のロヴィニ沖にあります。

灯台に上陸。灯台守のおじさんが荷物を運んでくれます。あれ、他に人は??

 洋上にポツンと浮かぶ岩礁の上に、スヴェティ・イヴァン灯台が1本。荷物を船から降ろすと、灯台守のおじさんが出迎えてくれました。けれど、他にゲストやスタッフの気配もなく、頭上を巨大なウミネコが旋回するのみ。まさか、おじさんと二人だけで、小さな島の夜を過ごすことになるとは!

左:シンプルな造り、色使いの客室。窓からは爽快な海の眺めが。
右:各部屋にトイレ&シャワーを完備。Wi-Fiはないけれどテレビはあり、エアコンはないけれど、お湯が出ます。

 灯台は1階に執務室と2ベッドルーム、2階に1ベッドルームと2段ベッドの部屋、そして灯台守のおじさんのお部屋。客室はそれぞれにキッチンとシャワー・トイレが付いています。塔のらせん階段を上ると、天辺には周囲を照らすためのライトの部屋が。

 ジーーーとタイマー音を立てながら回転するフレネルレンズを背に、ウミネコの糞で汚れたガラスの向こうに望む、薄暮のアドリア海。少々ひなびた灯台ならではの、センチメンタルな風情があります。

2016.03.05(土)
文・撮影=古関千恵子