山内宏泰のアートの交差点

山内宏泰のアートの交差点

生活の中の美とは何かを教えてくれる
工芸品の傑作と巨匠たちの作品

「美は暮らしのなかにあり」と、工芸品の傑作から知る

吉岡堅二《椅子による女》1931年

 どれほど派手な企画展を続々と催したとしても、美術館の良し悪しはそれだけじゃ決まらない。所蔵品の質・量にわたる充実度と、それらをいかに見せるべきかと心を砕く姿勢がなければ、佳き館とは言い難い。

 ここに、所蔵品を中心として丁寧に編まれた、美術館としての気概を感じる展覧会がひとつ。東京国立近代美術館工芸館での「未来へつづく美生活展」だ。

 近代の名作、たとえば岸田劉生《麗子像》や藤田嗣治の戦争画といった絵画・彫刻を常設展示して、いつでも眼を楽しませてくれるのが東京・竹橋の東京国立近代美術館。工芸館はその分館にあたり、すぐ近くに別の建物として佇む。

 皇居のお堀端というこの上なく静謐なロケーションから館内へ入る。と、かたちも色もさまざまだけれど、研ぎ澄まされたシンプルさと親しみやすさを共通して持っているモノの数々が、こちらも静かに並んでいる。

 家具や器、硝子、漆器、着物……。近代から現代にかけて、人の手が生み出してきた品々のなかで、最上質のものばかりだ。工芸品なのだから、実用に供するものが大半のはずなのに、洗練を極めたその姿を眺めていると、これらはただ美に奉仕するために存在してきたのでは? と、そんな気がしてくる。

左:ルーシー・リー《青釉鉢》1978年
右:岩田藤七《水指 彩光》1976年

 今展に選ばれているのは、1920年代から現在までのもの。三代徳田八十吉《燿彩鉢 創生》は1991年作の陶芸作品で、中心に向かって濃くなっていく表面の色合い、そのグラデーションの妙に眩暈がする。増村益城の漆器《乾漆朱輪花盤》は、鈍く赤い光を放って、艶やかな表面は一度手で触れたら吸い付いて離れなくなってしまいそう。

 工芸の美に国籍や洋の東西は関係ないようで、それら和の技術の極致にある品と、マルセル・ブロイヤー《肘掛け椅子》、ルーシー・リー《青釉鉢》などが、ここでは欠片の違和感もなく融和している。

志村ふくみ《紬織着物 水煙》1963年

 加えて、会場には特別な空間も用意されている。店舗やブランドの設計・運営を手がけるランドスケーププロダクツ代表の中原慎一郎、ミナ ペルホネンを率いるファッションデザイナー皆川明の両名が、現代の「目利き」として工芸品をセレクトし、インスタレーションまで手がけたスペースがある。彼らの世界観をより深く知るのにもうってつけだ。

 今展の出品作は約100点。同館には他に、第一級の工芸品が3400点も収蔵されているとか。すべて一挙に観るのはさすがに無理なので、折に触れマメに足を運んで眼福を味わいたい。工芸品の傑作が、生活のなかの美とは何かを教えてくれる。

1920~2010年代 所蔵工芸品に見る
『未来へつづく美生活展』

会場 東京国立近代美術館工芸館(東京・北の丸)
会期 2015年12月23日(水・祝)~2016年2月21日(日)
料金 一般210円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL http://www.momat.go.jp/

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2016.01.16(土)

文=山内宏泰

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