佐々木俊尚のニュース解体新書

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米大統領候補者レースでトップを独走
ドナルド・トランプってどんな人!?

【KEY WORD:ドナルド・トランプ】

 変な髪型と暴言ですっかり有名になってしまったドナルド・トランプさん。来年おこなわれるアメリカ大統領選で、共和党・民主党それぞれの候補者選びが年明け早々にも始まります。この共和党の候補者選びでトップを独走しています。

 それにしても、発言があまりにひどい。

 「メキシコ移民はアメリカに薬物や犯罪を持ち込んでるし、あいつらはレイプ犯だ。大統領になったら、メキシコ国境に万里の長城をつくる。費用はメキシコ持ちだ」

 「イスラム教徒のアメリカへの入国を、全面的かつ完全に禁止する」

 「中国の習近平に国賓待遇の晩餐会なんか必要ない。マクドナルドのハンバーガーでも食べてもらえ」

 こういう発言を繰り返しているのにもかかわらず、人気はうなぎ登りです。「イスラム教徒は入国禁止」発言はさすがに共和党の中からも激しい非難のあらしが巻き起こりましたが、支持率はさらに上昇。共和党支持層からの支持率が、10月の28%からどーんと増えて41%にまで達したそうです。

 この背景には、中東の混乱と大量流出する難民、そしてパリの同時多発テロ、アメリカでもカリフォルニアでイスラム過激派のテロ事件が発生したことがあります。欧米が恐怖のスパイラルへと崩れ落ちつつあるのです。そういうなかで、「イスラム」などの外部に対して断固とした態度を取っているように見えるトランプさんの人気が高まっているのでしょう。

 もちろん、イスラム国(IS)やカリフォルニアの個人的なテロ犯は極端な人たちであって、世界に16億人もいるイスラム教徒とイコールではありません。しかしまさしくテロ(恐怖)が蔓延していく中で、人々にはそういう冷静で良識的な意見は届きにくくなっていく。そういうところに、トランプさんのような極端な意見を言う人が支持されるようになってきているのです。

 フランスでも、マリーヌ・ルペンさんという女性党首がひきいる極右政党・国民戦線が勢力を伸ばしています。イギリスの著名な経済紙「フィナンシャルタイムズ」はしばらく前、こんな書き出しのコラムを載せました。

 「2017年の悪夢を見た。その夢にはトランプ大統領とルペン大統領、プーチン大統領がいた」

 現職のプーチン大統領にちょっと失礼な感じもしますが、アメリカやフランスのトップがこういう極端な人たちになってしまうというのは恐ろしい悪夢であるのはまちがいありません。

本当に大統領になる可能性は?

 トランプさんが大統領になる可能性はあるのでしょうか?

 あまりにひどい暴言、ヘイトスピーチの連続に良識のある人たちは顔をしかめています。アメリカ政府の広報担当である大統領報道官でさえ、「大統領になる資格はない」と断言したほどです。当然、共和党候補からも外されることになると思うのですが、ここで悩ましいのが、トランプさんはたいへんなお金持ちであるということ。「不動産王」と呼ばれ、あちこちに「トランプタワー」「トランプインターナショナルホテル」などを建て、資産は自称100億ドル。1兆円以上にもなるということです。

 つまり選挙資金は豊富にあるため、かりに共和党から排除されても、無所属で大統領選に立候補するでしょう。そうなってしまうと、保守票が共和党の候補とのあいだで二分されてしまい、共和党は来年の大統領選で勝てる目がなくなってしまうんですね。これが怖いからなかなか共和党はトランプさんを切れないというわけ。

 それでもさすがに共和党がこのままトランプさんを支えるとは思えませんが……まだ先のことはわかりません。民主党の候補者選びで大本命のヒラリー・クリントンさんに頑張ってもらうしかないのでしょうか。

 世界最大の大国の有権者がどう判断するか。ここが崩れると一気に世界の秩序が崩れていきそうな恐ろしい予感に満ちあふれていますが、アメリカの良識を信じたいと思います。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

2015.12.21(月)

文=佐々木俊尚

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