旅館道 その2
「宿のあちこちに息づくとちぎ民藝を楽しむ」

左:ただ眺めるのではなく、使ってもらってこそ焼き物は意味を持つと話す田村直己氏。
右:オリジナルの陶琴を演奏する田村氏。マリンバより硬質な澄んだ音がする。

 「界 鬼怒川」のご当地ならではのおもてなし“ご当地楽”は、栃木に江戸時代から続く伝統の益子焼を、楽器にして演奏を楽しむという、意外な形で生かしたものだった。これらの楽器は、益子焼の作家である田村直己氏とコラボレーションして1年かけて作ったオリジナルで、演奏会で披露される楽曲も田村氏が作曲したものだ。

ロビーに並べられていた壼には、龍王峡から来た龍神を思われる柄が。これが壼太鼓になる。

 「自分自身、トロンボーンを演奏し、アマチュアオーケストラで指揮をするなど音楽には親しんでいました。また、有名なオカリナ奏者の宗次郎さんが近くに住んでいた時期もあって、焼き物で音楽を奏でるということには関心がありました。“ご当地楽”でのコラボレーションの提案をいただいて、オカリナは皆が作るのでリコーダーを作ろうと思ったのです。陶琴と壼太鼓は、音程を作るのにずいぶんと苦労しました。陶琴は、数多く作ってみて音に合うものを選んだり、壼太鼓の中に砂を入れて音程を作り上げたり。壼太鼓がベース、リコーダーのメロディーに陶琴がハーモニーを奏でて、毎晩、スタッフの方が演奏会をします。その後には、お客様に実際に体験もしてもらい、陶器の音というのを味わってもらえます」と田村氏は語る。

夜にはスタッフによる演奏会を開催。オリジナル曲「雷様(らいさま)」は、栃木に多い雷にインスパイアされたもの。
ゲストも興味津々で楽器を触っている。

 エントランスホールの水琴窟も田村氏の作品。庭園では地中に埋められている水琴窟を壼にすることで、ひしゃくで水をかけ、いろいろな音を楽しめるように工夫したという。

置物やカップ、湯呑みにもさりげなくとちぎ民藝が溶け込んでいる。

 また、すべての部屋がとちぎ民藝に触れることのできる“ご当地部屋”となっている。

 部屋に入るとかわいい表情の益子焼の鬼の置物が迎え、カップや湯呑みとして使うそばちょこも益子焼。ベッドの枕元を飾るのは鹿沼組子、ベッドルームとリビングスペースを区切る障子には黒羽藍染。テラスに敷き詰められているのは栃木県で産出される大谷石だ。

左:ベッド周りの照明や障子にも、とちぎの技がモダンな形で設えられている。
右:露天風呂付きの部屋では、いつでも開放的な湯が楽しめる。

 全48室のうち20室は、森を望む露天風呂が備わっていて、プライベートにゆっくりと湯に浸かれる。

2015.12.27(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=釜谷洋史