LOVE:シカ肉
高知の豊かな森で育ったシカのおいしさといったら!

高知|ヌックスキッチン

 先日、高知で素晴らしいお店と出会うことができた。以前から「ぜひ行ってみて!」と食的百戦錬磨の知人からおすすめされていた一店。ようやく念願かなっての訪問!

仔イノシシの低温塩釜焼き。ウリボウ(仔イノシシ)ならではの繊細な肉質。

 「ヌックスキッチン」がオープンしたのは2014年7月。たった1年半で、高知でもっとも予約が取りにくい店になっているという。営業日が毎週木・金・土と少ないということもあるが、なかなかの盛況ぶりである。しかも、訪れた人のほとんどがリピーターとなり、県外からのお客さんも相当数だそう。その実力、いかほどか!

 店主は女性。西村直子さんがひとりで腕を振るっている。旅が好きで世界を回り、オセアニアではニュージーランドを中心に腰を据え、料理人・料理教室講師として活躍した。帰国後は、地元高知のジビエを広めるべく、企画開発などにも力を注いでいるという。

 この日はディナーをおまかせでお願いする。しょっぱなからテーブルに大歓声。前菜の盛り合わせなのだが、早くもシカ、イノシシのオンパレードだ。シカらしい濃い血色のサラミやテリーヌ、オイル煮にしたアヒージョにシチュー、カレー味のパテまである。イノシシのピザ、なんていうのもあってとにかく楽しく、お酒飲む組はすかさずビールをワインに置き換えていた。

前菜の盛り合わせ。料理名がわかるし、人数分だし、盛り上がるし。

 なかでもおいしかったのがシカのたたき。シカのしっとりとした赤身はとてもたたきに合うのだ。上にのせられた柑橘は、高知の柑橘「直七」だと思われる。このすっきりとした酸味がたたきをますますおいしくしてくれた。

 女性店主の心配りか、肉をたっぷり食べる前には野菜サラダを。高知はどこに行っても野菜がおいしくて驚いたが、こちらはドレッシングもふわふわと具だくさんで、クミンが効いているから食欲も増進。シンプルなサラダがもりもり食べられる。

 サラダで胃袋のスタンバイができたところで、さあ、ジビエを! まずは仔イノシシの低温塩釜焼き。塩で包んで焼いたイノシシ肉がなんて芳醇なこと! イノシシは野趣が売りだろうけれど、仔イノシシはそこまでハードではなく、ここではそのほんのりした野趣を残して華やかに昇華。舌に絡みつくようになめらかで、シルキーだ。塩釜だからほんのりと塩味が広がり、味わい豊か。ハニーマスタードを少しだけつけて。なんて繊細な焼き方をする方なのだろう、とカウンターの向こうで奮闘する西村さんに熱視線を送る。

シカのソーセージと冬瓜のポトフ。あの手この手のジビエぶり、あっぱれ。

 コースは緩急ついていて、次はポトフ。この日はシカのソーセージと冬瓜のポトフ。ソーセージは信頼できる業者に頼んで作ってもらっているそうだが、今すぐ売ってほしい! と言いそうになるほどの完成度。シカだから、というもの珍しさではなく、鉄っぽい旨みがしっかりと広がる逸品。高知県、西村さん開発の「シカドッグ」を売り出し中らしいが、そちらも食べたい……。

2015.12.20(日)
文・撮影=北條芽以