「原産国:イタリア」は、イタリア産オリーブオイルではないかも……

 オリーブオイルと言えばイタリア! と多くの方が思うかもしれません。たしかにイタリアはオリーブオイルの大産地には違いありませんが、世界最大の生産国はイタリアではなくスペインです。イタリアの3倍の生産量を誇るスペインは、最近日本でも輸入相手国としてトップに躍り出るなど、世界のオリーブオイルシェアの4割近くを占めています。一方でイタリアは、大生産国でありながら国内需要を賄いきれず、実は輸入大国でもあります。それでも、アメリカや日本などの大消費国に、憧れの「イタリアブランド」としてオリーブオイルを輸出しているのですが、国内需要も満たせない状況であるのに、それらは本当にイタリアで作られたものなのでしょうか?

 日本の法律では、「ボトル詰めされた場所が属する国」が「原産国」ということになっていて、その意味では、ボトル詰めがイタリアでされていれば、中身がどこで作られていても、そのオリーブオイルは「イタリア原産」という表記をしてよいことになります。これは、他の多くの国でも同様です。

 この制度を「悪用して……」と言えば聞こえは悪いですが、この制度のスキを巧みに突いて、他国から輸入されたオリーブオイルをイタリア国内でボトル詰めして、「イタリア産」と明記して販売することも後を絶ちません。実際にイタリアのオリーブオイル貿易統計を見ると、1990年から2006年の平均で生産量が約60万トン、そして国内消費量が72万トン、輸出量が36万トンとなっていますから、差し引きすると約50万トンも足りない計算になります。生産量だけで国内消費量を賄えないにもかかわらず、さらに36万トンも輸出している、ということ自体、極めて不自然ですが、これがイタリアのオリーブオイル貿易の実態です。つまり、「イタリア産」として輸出されている量の大半は、中身は輸入オリーブオイルが使われている疑いが濃厚です。

前回、原産地認証制度は「品質」の目安にはならない、と申し上げましたが、さすがに「原産地」認証ですから、イタリアで原産地認証を取っていれば中身のオリーブオイルはイタリア産で間違いない、と思われるかもしれません。確かに赤色のDOP認証であればそうですが、この原産地認証マーク、似たようなものが2種類あってとても紛らわしく、またそれぞれが何を保証しているのかが分かりづらい、という問題があります。

左側の赤色がDOP、右側の青色はIGP。2009年までは、両方とも青色でさらにわかりづらかった。

 赤色の「DOP(原産地保護呼称)」認証と申し上げましたが、この他に、これとまったく同じ図柄で色だけが異なる「IGP(地理的保護表示)」認証と呼ばれるマークも実際使われています。IGPの認証規定はDOPよりもはるかに緩く、生産、加工、仕上げのいずれかがその地域で行われていればよいというもので、例えば濾過やボトル詰めなどの工程がその地域で行われていれば、原料はどこのものでも良い、と言うことになります。

 イタリアでこの青い色の認証マークをオリーブオイルに唯一使っているのがトスカーナ。イタリアの代表的な、というよりもトップブランドとでもいうべき「トスカーナ」の認証マークを誇らしげに掲げてはいますが、果たしてその中身はどこのものでしょう?

 さすがにこれだけ多くの「偽装」に関係する落とし穴が待っていると、またか! という印象ですが、その一方でまじめに品質の良いエキストラバージンを作る生産者もたくさんいるのです。こうした良心の生産者のためにも、マークや表示にとらわれることなく、正しくオリーブオイルを選んでいただきたいと願っています。

2015.12.07(月)
文・撮影=多田俊哉(日本オリーブオイルソムリエ協会理事長)