恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略

篠原かをり

人間の恋愛模様を、虫たちの驚くべき生態や交尾方法に例えて分類&分析した『恋する昆虫図鑑 ヒトとムシの恋愛戦略』が発売に! 著者は、昆虫大好き現役慶応ガールの篠原かをりさん。各話に挿入されるヒトコマ漫画と虫の絵は、人気漫画家の谷口菜津子さんが担当。本の中から厳選した3話をご紹介します!(全3回)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

ゼンニン目オヒトヨシ科「ゴキブリ系女子」

おすすめ度  ★★★★☆   生息地  あなたの後ろ

 何年も同じ男性に恋している。それはもう死にそうなくらいに恋してる。けれど、好きすぎて、あざとく口説き落とすどころか、会話もままならず、陰から見ているだけで前に進めない。こんな風に一途に想われてみたいと望む男性は多いはずなのに、不器用すぎるせいか、今一つ報われないと感じている人はいませんか?

 需要があるのはあくまで「死ぬ気で恋をしているように見える乙女」であり、「死ぬ気で恋をしている乙女」は得てして持て余される運命にあるのです。

 マメに連絡をとったり、思わせぶりなことを言ってみたりといった普通の恋愛テクニックには物怖じするくせに、ある日突然辻斬りのように告白してみたりする。何でもない一言には一喜一憂するくせに、ちょっとやそっと振られたくらいじゃへこたれない生命力を持っている。そんな強いのか弱いのかわからない乙女は、恋をするととにかく一直線でしつこいくらいに一途です。健気と言えば聞こえはいいのですが、傍から見るとちょっとした事件に発展していることもしばしば。

 昆虫界にもこんな一途で健気な乙女たちが存在します。

 2つに分けておさげにした長い黒髪。艶のある滑らかな体。冷え性で寒いのは苦手。目を合わせるとすぐに隠れてしまう恥ずかしがりやさんだけど、実はいつもあなたのそばにいる。彼女たちを知らない人はいないでしょう。

 彼女たちの名は、ゴキブリです。

 およそ3億4000万年前に地球に姿を現して以来、ほとんどその姿を変えることなく生きのびてきた人類の大先輩であるゴキブリですが、日本のみならず、世界中の多くの国々で「昆虫界一の嫌われ者」の座をほしいままにしてきました。

 「ゴキブリを食べた人が、胃の中で孵化したゴキブリの幼虫に内側から食い破られて死んだ」

 「命の危険を感じるとIQが300を超える」

 「頭を潰されてもしばらく生きていける」

 など、到底信じがたい都市伝説までまことしやかに語り継がれるほど、人類はゴキブリへの根深い恐怖に支配されています。

 そんな嫌われ者の代名詞であるゴキブリですが、恋愛をする姿の愛らしさはあまり知られていません。ゴキブリの求愛はメスから行います。産卵期に達したメスは翅を持ちあげて腹部にあるフェロモン腺から性フェロモンを放出するコーリングと呼ばれる求愛行動をしてオスを誘います。フェロモンに惹き寄せられてオスがやってくると互いに触角で触れ合い、お互いが同種の異性であることを確認し、確認が済むとオスは左右の翅を持ち上げメスに背中を見せ、メスがそこから分泌させる誘惑物を丹念に舐めあげると、ようやく交接が始まります。

 メスから求愛する昆虫の多くは、オスが交尾の時に渡す栄養などを目当てに何度も交尾を繰り返すのですが、ゴキブリのメスが交尾をするのは生涯でたったの一度だけ。たった一度の交尾で受けとった精子だけで、最大で数十回にも及ぶ産卵を成し遂げるのです。

 より優秀な遺伝子を求めるという視点から考えると、1回しか交尾をしないのは、あまり得な選択ではありません。異性と出会う可能性が極端に少ない虫であればまだしも、ゴキブリは同種の他個体を誘引する強力な集合フェロモンを持っているため、出会いのチャンスは決して少なくありません。それでも、ゴキブリは一途な恋を貫くのです。

 また、ゴキブリには仲間とコミュニケーションを図って集団の大きさを維持したり、つがいで協力して子育てをする種類もいるなど愛情深い一面もあります。

 何かと嫌われがちなゴキブリですが、これを機に少しでも好きになってもらえたら幸いです。

ゴキブリ系女子の特徴
●口下手 ●不器用 ●愛が重い ●惚れた理由は意外と浅い 
●付き合うと長続きする ●好きな人の隣の席より後ろの席のほうが落ちつく

 

ゴキブリ系女子の対処法

ゴキブリ系女子の弱みでもあり強みでもあるのが、生命力からくる粘り強さです。本人の中では何度も逡巡した結果であっても、相手にしてみればゴキブリ系女子の告白はまさに青天の霹靂。1回目では驚きすぎて対処できないことも多いので、2回目の告白まではチャレンジする価値があるでしょう。しかし、3回、4回と回数を重ねるごとに相手も辟易してきます。こうなるともう逆転は難しいので残念ながら諦めるしかありません。

  余談ですが、実は本編であげた都市伝説の中に一つだけ本当のことがあります。それは「頭を潰されてもしばらく生きていける」です。

ゴキブリは頭と胴体に一つずつ脳を持っているようなものなので、頭なしの体でもしばらく生き続け、学習能力まで持っていることがわかっています。

ゴキブリの生命力はまさに都市伝説級なのです。

 何度振られても好きな人が諦められないという人は、いっそのこと叩かれても叩かれても死なないゴキブリのようにしぶとく立ち上がって、相手が根負けするまで付きまとってやりましょう。5回目、6回目の告白までは身の危険を覚える恐怖でも、50回目、100回目の告白ともなると恐怖のベクトルが変わってきます。

 いつか「メリーさん」「口裂け女」といった都市伝説に肩を並べる存在として語られる日がくるかもしれません。

 

ゴキブリ
網翅目・ゴキブリ科
生息地:世界中
特徴:世界中に約4000種、日本にも約60種類が分布。シロアリと非常に近縁。食用・薬用としての歴史も古く、中国最古の薬学書『神農本草経』では「䗪虫」という名前で血行をよくする作用があると紹介されている。かつてはお金持ちの家にしか現れなかったことや卵が財布の形に似ていることから金運を呼ぶ縁起物であった。商用サイボーグとしてゴキブリを操作するロボットが販売されたり、ゴキブリの脳から天然の抗生物質が発見されるなど注目を集めている。

    1 / 1

篠原かをり 近況

とうとう本が発売になりました! お手にとっていただけたら嬉しいです。調子に乗ってタランチュラを増やしました。ローズヘアと呼ばれる、ピンク色の可愛いやつです。タランチュラのメスは飼育下だと20年程度生きるそうです。嫁入り先を選びますね。

プロフィール

1995年横浜市生まれ。横浜雙葉高等学校卒業。慶應義塾大学環境情報学部在学中。第10回「出版甲子園」グランプリを受賞(本書が受賞企画)。「昆虫をこよなく愛する理系女子」としてテレビやネットで活躍するほか、数々のクイズ番組に出演するなど、クイズ・クイーンとしての顔も持つ。(イラスト:谷口菜津子)

>「本の話WEB」で著者インタビューを公開中!

連載コミックエッセイ

もっと見る

ページの上部へ