ヨーロッパのカフェを撮影するコツ その3
「一杯のコーヒーにストーリー性を持たせる」

カフェ・ザッハのザッハトルテ。読みかけの新聞と食べかけのケーキで動きを出す。

 店内や飲み物を撮影しただけなら、いつもの記録写真と変わらない。そこでひと工夫。いつもと違う空間、そう、異国の空気感を味わいながら映画のワンシーンのように想像してみる。想像して自分なりに演出しながら撮影してみよう。

左:背景の窓やハンドバッグも入れて午後の光を感じる写真。カフェ・シュヴァルツェンベルクにて。
右:朝のカフェは毎日同じ人が同じ席に座っているらしい。いわゆるマイシート!

 カップの位置を変えてみる。背景に素敵な紳士を入れ込んでみる。地図を入れ込んでみる。バッグを入れ込んでみる。するとこの一杯のメランジェから物語が始まるのだ。

 これは私が教えるまでもなく自分の発想のままに撮ってほしいのだが、アドバイスをするなら写真は動画と違って静止画像であるということ。そこで綺麗な状態の時に撮影しようというのが常であるが、ドラマは綺麗ごとではすまない。

 そう、綺麗な形のケーキも一度フォークを差せばたちまち形は崩れ、口の中に運ばれていく。その過程を撮るのもひとつのドラマなのである。つまり、静止画像なのだが、動きのある写真。するとその写真は見る人の想像力を掻き立て、見る人がその先の物語を知りたくなるのである。

ケーキをショーケースから取り出してくれる動作も絵になる瞬間。

 カフェ写真の楽しさはその時代の人々のファッションや物の形などの記録だけでなく、10年後にその写真を見て、自分がその時何を考えていたかを思い出す一枚となることにあるのだ。

 私なんてこっぱずかしくなるほど気障な写真がたくさんある。しかし、それも過去の私だったのだと笑いとばすのである。

左:窓の外の風景も入れて撮影。
右:クリムトの有名な「接吻」がプリントされたジャムの小瓶などもウィーンならでは、ではないだろうか。

 以上。次回は何のコツをお教えしようかと検討中。旅先の写真撮影でこんな時どうしたらいいの? など、取り上げてほしいテーマがあれば、CREA WEBの「掲載記事へのご意見・ご感想」フォームからご意見をお寄せください。

山口規子(やまぐち のりこ)
栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業後、文藝春秋写真部を経て独立。現在は女性ファッション誌や旅行誌を中心に活躍中。透明感のある独特な画面構成に定評がある。『イスタンブールの男』で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、『路上の芸人たち』で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。著書にひとつのホテルが出来上がるまでを記録したドキュメンタリー『メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京』(文藝春秋)、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)や東京お台場に等身大ガンダムが出来上がるまでを撮影した『Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs』(集英社)などがある。また『ハワイアン・レイメイキング しあわせの花飾り』『家庭で作るサルデーニャ料理』『他郷阿部家の暮らしとレシピ』など料理や暮らしに関する撮影書籍は多数。旅好き。猫好き。チョコレート好き。公益社団法人日本写真家協会会員。

Column

山口規子のMy Favorite Place 旅写真の楽しみ方

山口規子さんは、世界中を旅しながら、ジャンルを横断した素敵な写真を撮り続けるフォトグラファー。風景、人物、料理……、地球上のさまざまな場所でこれまで撮影してきた作品をサンプルとして使いながら、CREA WEB読者に旅写真のノウハウを分かりやすくお伝えします!

2015.10.25(日)
文・撮影=山口規子