等級格付けに関する法規制も守られない生産国の実情

 オリーブオイルを買ったことのある人なら、「エキストラバージン・オリーブオイル」という名前を聞いたことがあるでしょう。「エキストラバージン」とは、オリーブオイルの最高グレードであることを表す規格で、その基準は、主な生産国が加盟する国際機関「国際オリーブ理事会(IOC)」によって一応決められてはいます。理事会に加盟していない日本は、その適用がないので国内法で規制するしか方法がありませんが、残念ながら日本では、オリーブオイルの品質等級に関する法律規制は無いに等しく、随分昔に作られた緩い決まりごとがあるのみで、「エキストラバージン」と表示することは規制されていません。

 言ってみれば、どんなにひどい品質のオリーブオイルだって、ラベルに「エキストラバージン」と書いても、おとがめなしです。

 そして海外に目を転じると、各生産国には国際オリーブ理事会が決めた規格基準を守ることが義務付けられているはずなのですが、これが実際には全く守られていません。

 「オリーブオイル」という商品には、信頼に足る規制の運用もなければ、良質な商品をつくる良心的な生産者を守る枠組みも存在しないのです。

国際オリーブ理事会の規定では、エキストラバージン格付にはテイスターによる官能評価が必須となっていた。

 では、いったいなぜこんな事態になったのでしょう。その疑問を解くカギは今から70年も前にさかのぼります。

 第二次世界大戦直後の荒廃したヨーロッパを、オリーブを使っていち早く農業復興させようと、スペインやイタリアなどではたくさんの農業補助金が出てオリーブ栽培の振興が図られました。ところが、補助金が出れば、それに群がる輩が出てくるのは世の常。オリーブ農業は不正と闇の社会の支配にまみれたのです。そのさなかの1959年に国際オリーブ理事会は設立され、いろいろな基準も整備されましたが、国際機関としてまさにこの「利権」の中心にあったのも他ならぬ国際オリーブ理事会。どんなに厳格な規定を作っても、それが守られる仕組みを作ることはできませんでした。というよりも、理事会自身が利権の元締めとして、規定が守られなかったことを黙認した、と言った方が正しいのかもしれません。

静かにオリーブの葉をくわえる鳩の石像がたたずむ国際オリーブ理事会の本部(スペイン・マドリード)。

 いずれにせよ、それからすでに50年以上が経過した現在も、残念ながら状況は変わっていません。

 いかがでしょう? 等級格付けに関する法規制も守られない生産国の実情がある中で、ちゃんと美味しい高品質のオリーブオイルを買うことができている自信はありますか? 値段が高いのを買っているから大丈夫? いやいや、値段も品質の目安としては全く機能していないのが実情。はてさて、ではどうしたらよいのでしょう……。

 次回は、品質偽装オイルの正体をあばいていこうと思います。(第2回に続く)

多田俊哉(ただ としや)
日本オリーブオイルソムリエ協会 理事長。国際基督教大学及びトリニティカレッジ卒業。モルガン銀行、JPモルガン証券、大手食品商社を経て、大前研一氏主宰(株)大前・ビジネス・ディベロップメンツ設立に伴い執行役員として経営参画。2009年(社)日本オリーブオイルソムリエ協会を設立。代表理事・理事長。海外の主要オリーブオイルコンテスト審査員歴任。香川県オリーブオイル品評会審査員。日本初の国際オリーブオイルコンテスト「OLIVE JAPAN」主催者であり、日本を代表するオリーブオイルの専門家として世界に知られる。オリーブオイルビジネスの不正を暴いた『エキストラバージンの嘘と真実』(トム・ミューラー著、日経BP社)で解説を執筆。