東京から近くて、住みやすい軽井沢にまず住んでみました

 私はいま、東京・軽井沢・福井の3カ所に家を借り、移動する生活をしています。仕事はイラストレーターで、ジャーナリストの夫・佐々木俊尚と二人暮らし。もうすぐ13歳になる小型犬を飼っています。

 20年ほど前にイラストレーターを目指して広島から東京に出てきて以来、ずっと東京が好きで他に拠点を持とうなんて考えたこともありませんでした。海外リゾートで海を眺めながら読書したり、知らない街を散策するのは好きだけど、場所の移動は非日常であり、仕事を忘れて心と体を癒すためのものだったのです。それなのになぜマルチハビテーション(多拠点生活)を行っているのか、またそれはどんな暮らし方なのかなど、私の体験や感じたことを紹介していきたいなと思っています。

『なくしたものたちの国』角田光代・著/松尾たいこ・イラスト(ホーム社)から。

 現在は1カ月のうち、東京に2週間・軽井沢に1週間弱・福井に1週間強という割合で滞在し、それぞれの場所で作品を作り、暮らしています。「3つも家があるなんてすごい!」「軽井沢に別荘かー、うらやましい」などと言われたりもするけど、どの家もオフィスであり生活の場所。好きな場所で自由に暮らしているという意識はなく、それぞれの場所が必要となり、自然とこのような形になっただけなのです。

中軽井沢駅から車で10分ほどの軽井沢の自宅。

 最初のきっかけは2011年3月11日の東日本大震災。私たち夫婦は二人ともフリーランスで目黒区の自宅を仕事場にしていました。その時、自宅のアトリエに一人でいた私は、経験したことのない大きな揺れに激しくうろたえ、夫が戻ってくるまでの数時間、ヘルメットをかぶり泣きながら犬と共にソファにうずくまっていました。幸い、家の中のものはひとつも壊れなかったし人的被害もなかったのですが、それからというもの私の頭の中はたくさんの心配事に支配されてしまいました。夫も私も近くに身内がいません。フリーランスなので大きな災害が起こり家を失った場合には、同時に仕事場も無くし、そんな時に頼る場所もなくいきなり収入源も失うことになります。

バルコニーから見た軽井沢の景色。

 そうして夫と話し合い、リスクを分散するために2軒目の家を借りることにしました。犬も一緒なので車で移動できる範囲でリサーチした結果、軽井沢がいいかもということに気がつきました。東京からは車で3時間弱。新幹線ならおよそ1時間なので、東京での仕事が多い夫も日帰りできます。古くからの別荘地なので東京暮らしに慣れた私たちにとって便利な点が多いのも魅力的。収集所にはいつでもゴミが出せるし、外から来た人を受け入れてくれる風土があって居心地もいいし、おいしいレストランもたくさんあり、地元の野菜や食材が豊富な大きなスーパーマーケットやパン屋さんも揃っています。

2015.10.17(土)
文・撮影=松尾たいこ