稽古場での大きな喜び

文花画 原笙会の胡蝶

 舞の稽古の他、舞楽の時に履く絲鞋(しかい)という靴を作ったり、衣紋(着付け)の練習、結髪の練習、化粧の練習などもします。絵描きにはたまらないことばかりです。

 豪華な舞楽装束を干したり畳んだり、修理をしたり、間近に触れることができるのは大きな喜びでありました。

 特に白化粧も楽しみのひとつです。平安時代、女性だけではなく男性貴族も白化粧をして舞楽を舞っていたそうです。

 水で溶いた「練白粉」で刷毛を使って一気に顔を真っ白に塗りつぶしますとそれは一旦「死」を意味します。

 乾いたぼたん刷毛で水分をとりながら肌に密着させ、「白粉」をはたきます(ここは乾燥との戦いでスピードが要されます)。

 そこに唇と目尻に紅をさし、役に合った眉を描き、新しい自分へと生まれ変わるのです。

 そう、新しい自分。日常の自分から身も心も舞人になっていく、何ともいえない不思議な感覚です。これが化粧の霊力というものでしょうか。

 お稽古の後のお茶の時間もまた楽しみのひとつです。舞楽についてのマニアックなおしゃべりに花が咲く楽しいひとときです。

 以前は結婚して子供が生まれると殆どの会員さんは退会されていましたが、最近は赤ちゃんを連れてお稽古に来られる人が増えました。赤ちゃんは雅楽の音色を聴きながらすやすや眠っていますが、時にはぐずってお稽古になりません。おんぶをして舞いながら足腰を鍛えることになります。いきいきと子育てしながら舞を舞う、女性団体ならではのそんな姿にとても感動してしまいました。

 「女が舞楽を舞うなんて……」と眉をひそめられた、そんな時代がつい最近までありました。原笙子先生も天国から微笑ましくご覧になっていることでしょう。

今年の秋の舞楽公演のご案内

 この秋、無料で気軽にご覧いただける公演がたくさんあります。私は9月12日(土)の万葉の歌音楽祭にゲスト出演いたします。悠久の歴史を湛える飛鳥の地で、高松塚古墳の壁画から抜け出たような美しい女舞『柳花苑』を舞うのはとても楽しみです。観光を兼ねてお立ち寄りください。

● 万葉の歌音楽祭
場所 国営飛鳥歴史公園 石舞台地区(奈良)
URL http://www.asuka-park.go.jp/
日時 2015年9月12日(土) 13:00~ (舞楽は15:00前後。音楽祭の審査中)
曲目 『柳花苑』

● 生田神社秋祭り
場所 生田神社(兵庫)
URL http://www.ikutajinja.or.jp/
日時 2015年9月22日(火) 19:00~
曲目 『陵王』他 管弦(演奏・生田雅楽会)

● 足立山妙見宮舞楽の夕べ
場所 足立山妙見宮 神楽殿(福岡)
URL http://myouken.or.jp/
日時 2015年9月23日(水) 16:00~
曲目 『迦陵頻』『胡飲酒』他 現代曲演奏(演奏・天理関門雅楽会)

● 西宮神社 観月祭
場所 西宮神社 本殿(兵庫)
URL http://nishinomiya-ebisu.com/index.html
日時 2015年9月27日(日) 18:00~
曲目 『胡蝶』『胡飲酒』

 女人舞楽 原笙会ホームページには、公演情報の他、舞楽装束体験などの情報が盛りだくさんです。是非ご覧ください。

女人舞楽 原笙会
URL http://www7a.biglobe.ne.jp/~gagaku/

中田文花(なかたもんか)
日本画家。描く事で仏教や日本の伝統文化を伝える。院展、万葉日本画大賞展など多くの公募展に入選。平成23年東大寺にて得度、在家尼僧となる。薬師寺機関紙挿絵、知恩院機関紙表紙絵を連載中。趣味:短歌、舞楽、龍笛、茶道。
ホームページ「文鳥寺画房」 http://bunchoji.com/
Twitter https://twitter.com/nakatabuncho

Column

尼さん日本画家 中田文花と遊ぶ古都風物詩

大人になったら東大寺でお土産を売る人になりたかった――お寺好きがこうじて尼僧になった関西在住の日本画家・中田文花さんが、関西の伝統文化と美の世界を分りやすく案内します。

2015.09.05(土)
文・撮影=中田文花