輸入された美術品が京都の工芸技術を高める契機に

 祇園祭の山鉾は、鉾建ての日から巡行の日まで、たった1週間で姿を消す仮設の構造物です。

 釘一本も使わずに、荒縄だけで締め上げ組み立てるのですが、そうしてできた土台を飾るのが「懸装品(けそうひん)」です。左右の胴懸、前の前懸、後ろの見送りなどは、国の重要文化財に指定されているものも多く、「動く美術館」と呼ばれています。

 宵山の期間、こうした懸装品があちこちの町会所に飾られます。祇園囃子を聞きながら楽しみましょう。 

橋弁慶山の会所。橋弁慶山は弁慶と牛若丸が五条大橋の上で戦う場面を再現する。
橋弁慶山の会所に飾られた懸装品。

 中国の刺繍や西陣織、そして驚くことにベルギー製のゴブラン織りなど、シルクロードを通じて「明」との貿易で輸入されたものがふんだんに使われています。題材も日本、中国の故事のみならず、ギリシャ神話から旧約聖書にまでわたっているから驚きです。当時の町衆の財力と心意気を表しています。この輸入された懸装品を修復再現することによって、京都の工芸技術は飛躍的に高まっていきました。

木賊山(とくさやま)の懸装品。中国の人物画などが描かれている。
金具には中国で縁起が良いとされる蝙蝠(こうもり)があしらってある。
金糸をふんだんに使い、刺繍で人物の表情まで豊かに表現した逸品。

 宵山では、町会所に飾られたこれらの懸装品をじっくり見ることができます。なかには、あまりに貴重で巡行時には飾れないものも見られます。

2015.07.12(日)
文・撮影=小林禎弘