【BLはスライド式に作品歴を追え。】

 BLマンガ家は大抵、二次創作系同人誌か、最近ではネット経由でスカウトされてデビュー、以後はBL専業のかたが多数という傾向です。さらに人気作家ほど2~3年先までスケジュールが埋まり、他ジャンルで描く余力がないという状況も相まって、BL初心者が途中入りしようにも、読み始める切っ掛けを摑み辛いかもしれませんね。

好きなひとは、同性の義弟。セクシャリティの間を描く。

 そんな場合は、人間のセクシャリティを命題とする作家から入るのはどうでしょう。イチ押しは、志村貴子さん。セクシャリティとは性的指向、生物学的性、性自認、社会的性役割を指す言葉ですが、志村さんは、これらすべてにまつわる問題を各作品に投影し続けてきました。代表作『青い花』は百合マンガの金字塔で、『放浪息子』は女の子になりたい男の子が主人公。『どうにかなる日々』はさまざまなセクシャリティを持つ人々のオムニバス。『娘の家出』は妻と離婚し、彼氏と男夫婦として暮らす父を持つ娘の話。新作『こいいじ』は、男女の初恋物語。

 そんな作者が13年振りに刊行したBLが『起きて最初にすることは』です。親の再婚で中学3年と1年で義兄弟になった二人。ある事件をきっかけにひきこもりになった兄は、今でも弟の夏央が好きでたまらない。だけど昔憧れた兄がゲイだと知った夏央は冷淡な態度を取り続ける。兄の気持ちは通じるのか? ……セクシャリティは決して白か黒ではありません。十人十色で、しかもグラデーションになっています。志村作品をスライド式にコンプリートすれば、いつのまにかBLもまたひとつのセクシャリティのあり方と、するりと飲み込めてしまうはずです。

『起きて最初にすることは』(全1巻) 志村貴子

ゲイの兄が、ノンケの弟に叶わぬ恋を続ける話。兄が朝起きて最初にすることは、血のつながらない弟・夏央の寝顔を見ることだ。滑稽なほど濃い愛情表現に対して、引きまくる弟。果たして彼らに未来はあるのか? 不憫な兄から目が離せない。
リブレ出版 638円
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Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2015.07.05(日)
文=福田里香

CREA 2015年7月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

いつ行ってもいいね、ハワイ

CREA 2015年7月号

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いつ行ってもいいね、ハワイ

定価780円