目の前は海。美味しいものがないはずがない。ロケーション、食材、技術、サービス、すべてにおいて最上クラスのレストランが、ここには数えきれないほどある。

 その中から、3ツ星、1ツ星の代表と、星はなくてもサン・セバスチャンの食のクオリティを証明する店を自信をもって紹介する。

» 第1回 サン・セバスチャンの3ツ星代表「アケラレ」
» 第3回 絶景レストラン「ミラドール・デ・ウリア」
» 第4回 ハリウッドセレブ御用達「ブランカ」

◆ Kokotxa (ココチャ)

今春の新作“ロブスターのマルミタコ”。目の前の海で獲れた新鮮なロブスターの下には、燻製したジャガイモのピューレ。エビのスープをかけて食べる。

 “新バスク料理”を受け継ぐ若手シェフ、ダニエル・ロペスは、前日トルコから帰って来たばかり。

「トルコに2軒、店を出したところなんです。トルコで初めてのバスク料理店なので嬉しい。私はどこに行くときもバスク料理を知ってもらいたいと思っているので」

 サン・セバスチャンに生まれ、目の前の海で遊んで育った。16歳でルイス・イリサール料理学校の第1期生となり、その時にはもう「料理人になる」と決めていた。

「料理の主人公は素材。いつも最良の素材を使った伝統的なバスク料理をベースにしていますが、そこに新しいテクニックを使い、新しい解釈で見せる。旅先でその国の料理や素材を勉強し、何かの形で取り入れることもあります。日本ではポン酢を学びました。グローバルであることも大事です」

 彼が言うのがまさに“新バスク料理”だ。料理はどれも繊細で、皿の美しさは群を抜いている。今年の春にお目見えする予定の新作、“ロブスターのマルミタコ”は、マグロ、トマト、ジャガイモ、ピーマン、タマネギを煮込んだバスク料理をダニエル流に解釈したものだ。

 燻製したジャガイモを寒天と一緒にピューレにして下に敷き、ピーマンで作ったムースを添え、注ぐスープは鰹出汁をベースにエビの卵を使った濃厚なもの。あくまでもエビには特別な手を加えない。いかに新しくても、これなら老若男女がうなずく料理だろう。

Daniel López(ダニエル・ロペス)

1975年、サン・セバスチャンでデリカテッセンを営む家に生まれる。家業を手伝ううちに料理の面白さに目覚める。2002年、旧市街の港の近くに「ココチャ」を開業。07年よりミシュラン1ツ星。バスク・クリナリー・センターで一般客を呼び、生徒と「ココチャ」のディナーを提供するなど、育成にも携わっている。

撮影=橋本 篤