クライマックスは松明を振り回す鬼の登場

 私が描いた花会式のリーフレット原画でもう少しご紹介しましょう。この1枚の絵に花会式を凝縮してみました。

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 左上に遠望。薬師寺は二つの塔がある、こんなにも美しいお寺です。描いてある花は十種類の造花です。真ん中は御本尊の薬師如来。その前で時導師が声明を唱えています。「南無薬師瑠璃光如来」とはじめはゆったりとお唱えしていたのがついには感極まり「南無薬(なむや)―――!!!」と略されます。その絶唱に必ずや胸を打たれることでしょう。

 左中は練行衆の行道。左下は咒師作法といって、まっくら闇の中、打ち鳴らされる太鼓、両手に刀剣を持ちひたひたと走りながら結界をするという大変神秘的な作法です。これは夜7時からの法要でのみ見ることができます。

 右下にお昼の稚児行列の子供達。そして右上は、最終日31日の鬼追式です。皆さんは2月の節分に豆を蒔いて鬼を祓われたと思いますが、薬師寺の鬼は松明を振り回しながら、所狭しと暴れ回ります。とにかく狂暴で悪いので注意が必要です(笑)。

 さてその後、覺田さんはどうされているのでしょうか。こんな素晴らしい法要を教えてくださった覺田さんに心から感謝しているというのに、もう、会えなくなってしまいました。長い闘病生活も空しく、お若くして他界されたのです。

文花作 練行衆人形 花会式の金堂にて。

 覺田さんがこの世にいなくなっても花会式は変わらず続いています。伝統行事は我々が壮大な歴史のほんのひとコマに生きているだけだということを教えてくれます。

 花会式が終わる頃、狂おしいほどに花々が咲き乱れ、古都奈良は本格的な春となります。春の風が吹き抜ける薬師寺の伽藍で空を見上げていると、ふと覺田さんの声がしたような気がしました。

「あんたお寺好きか? お寺好きやったら薬師寺に来いひんか」

薬師寺
所在地 奈良県奈良市西ノ京町457
URL http://www.nara-yakushiji.com/
※2015年の『花会式(修二会)』は3月25日から31日まで毎日開催。

中田文花(なかたもんか)
日本画家。描く事で仏教や日本の伝統文化を伝える。院展、万葉日本画大賞展など多くの公募展に入選。平成23年東大寺にて得度、在家尼僧となる。薬師寺機関紙挿絵、知恩院機関紙表紙絵を連載中。趣味:短歌、舞楽、龍笛、茶道。
ホームページ「文鳥寺画房」 http://bunchoji.com/
Twitter https://twitter.com/nakatabuncho

 

Column

尼さん日本画家 中田文花と遊ぶ古都風物詩

大人になったら東大寺でお土産を売る人になりたかった――お寺好きがこうじて尼僧になった関西在住の日本画家・中田文花さんが、関西の伝統文化と美の世界を分りやすく案内します。

2015.03.21(土)
文・撮影=中田文花