900年の伝統が受け継がれた和紙の花造り

 ぱっとあたりが明るくなるような、美しい造花(つくりばな)。すべてが和紙で出来ていて、およそ900年の伝統が受け継がれた手作りの花だと説明すると、多くの方が驚かれます。梅、桜、桃、椿、山吹、杜若、牡丹、藤、百合、菊の十種類もあり、代々花づくりを担う家から奉納されます。平安時代、堀河天皇の病気平癒に感謝した皇后が奉納したのがはじまりとのこと。

 今日は奈良のお寺へ、春の気配を探しに行ってみましょう。

 古都奈良の桜の花がほころぶ頃、薬師寺では花会式(はなえしき)が始まります。

 国宝・薬師三尊像をご本尊とする金堂は、華やかな造花で荘厳(しょうごん)され、練行衆(法要を行う十人の僧侶)の美しく染められた麻のお袈裟がさらに彩りを添えます。

 すっと立ち止まった僧侶の指先を離れた色とりどりの散華(さんげ)の舞い落ちる様は、薬師如来のおわす東方浄瑠璃浄土はかくありなむと思わせます。

 正式には前回ご紹介したお水取りと同じく「修二会(しゅにえ)」という行事で、薬師如来に日頃の罪を懺悔し五穀豊穣、万民豊楽などを祈る「薬師悔過法要」です。堂内の華やかで美しいことから花会式と呼ばれるようになりました。

 それらの願いをこめたお経を、歌のように声を揃え、節をつけて唱えるのが声明(しょうみょう)です。そして、初めて声明を聴いてみたいという人に私が一番におススメするのがこの花会式です。

金堂のご本尊、薬師如来の前で立ちあがって声明を唱える僧侶。

 花会式の声明はこれから生きてゆくための祈りの声です。それゆえに今咲かんとする花のように生命力に溢れ、とても力強く、伸びやかな旋律はきっと一般的なお経の概念を覆すことでしょう。

 なんといっても他のお寺と違うのは、参拝者参加型の法要で、一緒に声明を唱えることが出来る点です。お経本の貸し出しもある親切さ! 練行衆と参拝客、満堂の人々が心ひとつに唱和し、法悦の極致に至る……こんな楽しい法要を他に知りません。特に夜の法要後、お香の薫りに満たされたお堂を出ると体中から良い香りがすることにも驚かされます。

 法要は午前3時から、午後1時から、午後7時からと3回に分けて行われます。是非夜7時の法要にお出ましください。お昼の法要よりずっと厳かで雰囲気があります。詳しい日時は薬師寺のホームページ(外部サイト)でご確認ください。

2015.03.21(土)
文・撮影=中田文花