BOOKS INTERVIEW 本の本音

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ふたりの男の「人生スイッチ」を描く
朝倉かすみの楽しい最新長篇

人は毎日、小さな人生スイッチを選んでいる!?

今月のオススメ本
『地図とスイッチ』朝倉かすみ

自分を「ぼく」と呼ぶ栄人の語りと、「おれ」と呼ぶ拓郎の語りが入り交じって描かれていく40年。ちゃんとしたお勤めをしたり、フリーターになったり、できちゃった結婚をしたり、モテてもなかなか結婚しなかったり。人生のままならなさがわかる、楽しい長篇。
朝倉かすみ 実業之日本社 1,400円
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「生年月日も場所も同じ男の子がそれぞれどんな人生をたどるのか。『結婚するなら、どっちと?』とか、楽しんで読んでもらえたら」

 朝倉かすみさんの『地図とスイッチ』の主人公、蒲生栄人と仁村拓郎はともに同年同日、札幌の同じ病院で生まれた乙女座同士。ふたりの人生の節目はなぜか似たようなタイミングでやってくる。

 面白いのは、彼らはそれを〈人生のスイッチ〉と捉え、その選択に沿った経路を自分の地図にマーキングしているように感じていること。

「私自身の実感でもあるんです。実際、軽い気持ちでした選択が、あとで大きく“転機”と呼べるできごとと関わってこないとも限らない。押したり押さなかったり押さざるを得なかったりを繰り返して、人生の地図はできていくのかもしれないと」

 押したスイッチによって、ふたりの道筋はときにクロスすることも、ニアミスすることもある。

「栄人や拓郎には『押さなければよかったのに』と老婆心がわくシーンもたくさんありました(笑)。一方、彼らと関わる美雪や雅美やちえり……女性たちは、押し方が違いますね。『ここでいくぞ』というとき、体重のかけ方が違う! かと思えば、両手でスタンバイしているとか、押したのに『いーや、押してない』と言い張って、なかったことにするとか、マイルールもはなはだしい(笑)」

 女性陣の堅実さや賢明さに比べ、あまりにぼんやりした栄人や拓郎。

「本人はちゃんとした大人のつもり。でも傍から見るとちょい残念な、陰でこそこそ噂されそうな男性って、私にとっては意外に好ましいんです」

 栄人はミュージシャンの小沢健二似、拓郎は俳優の時任三郎似というモテキャラ設定。そのあたりは、朝倉さんのひそかな愛情の表れ!?

 また各章のトビラの裏には、栄人と拓郎の転機となった年の年表が付いているのだが、この仕掛けが大きな効果を生んでいる。

「社会を揺るがすような大事件が起きると、その背景を冷静に考察するより、むしろ自分の運命とかに引き寄せて考えてしまうのが大衆だと思うんです。そのごく普通の人々の、自分中心で世界を捉えてしまう思考回路。それも書きたいことでした」

 昭和や平成のできごとを踏まえて読むと、登場人物たちの行動原理に、時代の空気が色濃く反映されているのがわかる。「この年は何をしていたっけ」と自分の記憶のスイッチも押されて感慨深さもひとしお。ユーモアとペーソスにあふれた一冊だ。

朝倉かすみ (あさくらかすみ)
1960年北海道生まれ。2005年『肝、焼ける』で単行本デビュー。09年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞受賞。『てらさふ』、『遊佐家の四週間』など著書多数。

<この記事の掲載号>

CREA 2015年1月号

食べて遊んで朝、ひる、晩!
台湾でできること。

定価780円

2015.01.02(金)

文=三浦天紗子

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