コンテンポラリーな具象画を堪能できる、スイスのバーゼル郊外にあるバイエラー財団美術館。ここはレンゾ・ピアノ設計の美しい建築と質の高い近現代アートのコレクションで名高い。

『100年前(カレラ)』(2001) (C) Peter Doig. All Rights Reserved / 2014

 現在この美術館ではスコットランド出身の画家ピーター・ドイグの個展を開催中だ。ドイグは1959年生まれ。1990年代に台頭した新しい具象画(ニュー・フィギュラティブ・ペインティング)を代表する画家のひとりだ。彼自身の旅の記憶や広告写真、絵葉書などをイメージソースにして、具象と抽象がせめぎあう独特の心象風景を数多く描いている。なかでも水面に浮かぶカヌーを描いた連作は有名だ。

『飲んだくれ』(1993) (C) Peter Doig. All Rights Reserved / 2014

 この展覧会にも『100年前(カレラ)』というカヌーを主題とした作品が出品されている。ドイグの絵画は、キャンバスのサイズが2メートル前後の大きな油彩が中心だ。スナップショットのようなパーソナルな視点と大胆な色彩、かろうじて具象性を保つような危うさが渾然一体となり、見る人を画面のなかに引き込む強い力が生まれている。

 このほかにもル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンを描いた『コンクリート・キャビン II』(1992)、『飲んだくれ』(1993)、『反響―湖』(1998)といった代表作を通じて、ドイグの濃密な世界を味わうことができる。

『コンクリート・キャビン II』(1992) (C) Peter Doig. All Rights Reserved / 2014
『反響―湖』(1998) (C) Peter Doig. All Rights Reserved / 2014

 ちなみに常設展示が充実しているのもバイエラー財団美術館の大きな魅力だ。著名な美術商だったエルンスト・バイエラーのコレクションは親交の深かったピカソの作品のほか、セザンヌやモネなどの後期印象派から、クレー、カンディンスキー、第二次世界大戦後の現代アートまで幅広い。特に庭の池に面して大きなガラス窓が設けられた展示室にある、モネの『睡蓮』とジャコメッティの彫刻は必見だ。

モネの『睡蓮』の展示室 Courtesy of Fondation Beyeler

 レンゾ・ピアノによる抑制された建築空間とアート、自然の景観が調和した展示は見事。バーゼルを訪れたなら、絶対に足を運ぶべき美術館だ。

「ピーター・ドイグ展」
会期 2014年11月23日~2015年3月22日
会場 バイエラー財団美術館(バーゼル、スイス)
URL http://www.fondationbeyeler.ch/en/Home

鈴木布美子 (すずき ふみこ)
ジャーナリスト。80年代後半から映画批評、インタビューを数多く手掛ける。近年は主に現代アートや建築の分野で活動している。

Column

世界を旅するアート・インフォメーション

世界各地で開かれている美術展から、これぞ!というものを、ジャーナリストの鈴木布美子さんがチョイスして、毎回お届けします。
あなたはどれを観に行きますか?

2014.12.17(水)
文=鈴木布美子