【KEY WORD:外国人観光客】

 日本を訪れる外国人観光客の数が、過去最高を記録しています。2014年1月から10月末までの累計は1100万人あまりで、昨年1年間の1036万人をすでに上回りました。今年はトータルで1300万人ぐらいになるだろうと言われています。

 日本を訪れる外国人観光客は、2000年には476万人しかいませんでしたから、この15年で3倍近くに増えたことになります。途中、リーマンショックで世界が不況になったり、東日本大震災と福島の原発事故で観光客が減ってしまったりといったこともありました。しかしアベノミクスによる円安で日本旅行の費用が安くなったことで、訪日する人がどんどん増えてきているようです。

 円安に加えて、中国人観光客がものすごい勢いで増えていることもあります。今年の前半に中国から来た観光客の数は、前の年とくらべてなんと88パーセント増の100万人あまり。

 中国と日本は尖閣諸島問題で対立していて、中国では反日感情が強く、反日デモもひんぱんに行われているような印象があります。なのになぜ、日本への観光客がこんなに増えているのでしょうか?

世界ではまだ27位。観光客を「お迎え」するための課題とは?

 ひとつは、日本政府が観光客に対する消費税の免税を行っていて、免税店の数も増やしていること。10月からは薬品や化粧品、食品なども免税の対象となっています。日本の化粧品などはアジアでたいへん人気が高いですから、日本で安く買えるとなると中国や東南アジアからの観光客はさらに増えていくでしょうね。

 もうひとつは、入国ビザを緩和していること。有効期間内なら何度でも入国できる数次ビザを発行し、また一度だけ使えるビザについてはパッケージツアーではかんたんな手続きで取得できるようにしました。さらに9月末からはインドネシアやフィリピン、ベトナムについてビザの発給要件を緩和するといったことも行っています。

 こうした地道な政策がだんだんと実を結んで、訪日観光客の急増という良い結果をもたらしているということなんですね。ただ増えたとはいっても、外国人観光客の数でいえば日本は世界でまだ27位。1位のフランスは年間8300万人も外国人が訪れています。2位のアメリカは7000万人、3位のスペインは6000万人。

 まあアメリカはいまや世界の中心ですし、ヨーロッパはたいていが陸続きなので移動がしやすく、観光に行きやすいという立地のメリットがあります。それに比べれば極東の日本はヨーロッパやアメリカから遠く、おまけに海で隔てられているので行きにくい……という制限はあるでしょう。とはいえ同じ東アジアの中国では、外国人観光客数は5500万人もいて世界4位です。立地のデメリットを差し引いても、日本もこのぐらいの観光客を呼ぶことは可能ということも言えるのではないでしょうか。

 課題はたくさんあります。各国語の案内板などの不備。国内移動の交通費が異常なほどに高いこと。またパッケージツアーだけでなく、個人観光客に魅力のある街をどう作っていくのか。日本の生活文化の素晴らしさをどう海外の人たちに伝えていくのか。そういうマーケティングも含めて、ひとつひとつ課題を解決していけば、2020年の東京オリンピックのころにはたくさんの人たちをお迎えできるようなかたちを作っていけるのではないかと思います。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.11.28(金)
文=佐々木俊尚