真面目な多田といい加減な行天の奇妙なコントラスト

バスが間引き運転をしていると疑う岡老人は、バスジャックを決行。演じるのは大森監督の父、麿赤兒。弟の大森南朋は、世話好きな弁当屋役で出演。

 さらに小学6年生になった由良も、多田と行天に助けを求めてくる。母親がHHFA(家庭と健康食品協会)という怪しげな団体に入ってしまい、由良もそこで農作業を強いられていたのだ。HHFAの代表・小林(永瀬正敏)は、行天の少年時代に関わりがあった。そんなとき町ではバスジャックが起きる。なんと犯人は、便利軒の常連である岡(麿赤兒)率いる老人グループ。闇組織の若きボスである星(高良健吾)、危ない売人のシンちゃん(松尾スズキ)ら、まほろ市のおなじみメンバーも絡んで、事件は予想外の方向へ転がっていく。

 行天は両親に虐待された経験から子供嫌いなのだが、小林の登場でその詳しい背景が明かされることに。果たして行天は、娘と向き合うことが出来るのか。一方、多田と、ドラマ版の最終回で夫の遺品整理を依頼してきた“キッチンまほろ”のオーナー、柏木(真木よう子)との関係にも変化が。みんな訳ありで、心の傷を抱えているが、それをどう乗り越えていくかが、今作の鍵になる。

バスジャックされた車内には行天と子供たち、そして小林が。どうする多田? どうなる行天?

 『まほろ駅前』シリーズの魅力は、男二人のバディ(相棒)・ムービーであると共に、不器用だが前向きに生きようとする人々へ、ささやかなエールを送っているところ。1作目に続いて監督を務めるのは、『さよなら渓谷』(2013)の大森立嗣。狂った時計を少しずつ直していくような繊細さと、ライオンに添い寝するような大胆さで、人間の持つおかしさと可能性を描いている。ちなみに『まほろ駅前』シリーズは実弟の大森南朋、実父の麿赤兒も登場するファミリー・ムービーでもあるのだ。

 真面目な多田と、いい加減な行天。性格が正反対のバツイチ男二人がいきがかり上暮らすことになるというのは、ジャック・レモンとウォルター・マッソーの『おかしな二人』(1968)以来、バディ・ムービーの鉄板。面白くならないわけがない。瑛太と松田龍平という、かっこいいがどこか浮遊感のある二人が、心に空洞を抱えているが、根はやさしい多田と行天を好演している。特に、とんでもない事件に巻き込まれてしまう行天を演じる松田龍平の、飄々としたズレっぷりが楽しい。瑛太とのコンビはまるで犬と猫。かまいたくなっちゃうんだよなあ。

『まほろ駅前狂騒曲』
累計120万部を突破した三浦しをんのベストセラーシリーズ第3弾を映画化。ペンキ塗りから買い物代行、遺品整理にボディガードまで……。何かと柄の悪いまほろ市で便利屋を営む多田啓介(瑛太)と行天春彦(松田龍平)。人生を捨てかけたバツイチコンビに舞い込んだ厄介な依頼は、まさかの事態へと発展する。
(C)2014「まほろ駅前狂騒曲」製作委員会
URL http://www.mahoro-movie.jp/
2014年10月18日(土)より全国公開

まほろ駅前狂騒曲

著・三浦しをん
本体1,700円+税 文藝春秋

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石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。

2014.10.16(木)
文=石津文子