ニューオーリンズで感じる「特別な何か」

山口 大雑把なとらえ方になりますが、僕らが「音楽」って言葉で指し示しているものは、ルーツがあります。ヨーロッパから米国に移住した白人のヨーロッパの音楽と、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人の音楽が融合してできたルーツミュージックから始まり、それが米国資本経済と結びついて世界を席巻したのが20世紀の大きな出来事ですね。ブルースもジャズもロックもヒップホップもそう。この定義から外れるのは、クラシックとワールドミュージックくらいですね。

伊藤 なるほど。日本のデュエット曲も、米国のルーツミュージックを源にしながら、独自の発展をしているってことですね。

山口 そんな視点で見ると、僕は、1960年代にアジアの端に生まれて、「音楽」で人生を踏み外してしまったと、自己定義しています(笑)。なので、仏教徒の僕ですが、聖地はニューオーリンズだと思っています。ジャズ発祥の地と言われるあの街に行くと、何か特別なものを感じるんです。

伊藤 ニューオーリンズかぁ、アメリカに5年も住んでいたのに行かなかったなぁ。バークリーではジャズを勉強していたのにもかかわらずですよ。マルディグラの時期はバークリーの生徒も先生も、こぞってニューオーリンズに行っていましたけど。僕の場合は、人生を歩いていたら「音楽」が転がってただけで、実際はそんなに「音楽」にのめり込まなかったのかもしれません。

山口 「そこに山があるから登るのだ」みたいで、カッコイイ!

伊藤 全然! ミュージックマンたちと話していると恥ずかしくなりますよ。自分の音楽に対する浅さに……。
 え~と、僕のミュージック・ライフはさておき、話をデュエットに戻しますけど。何だかんだで毎年、2、3組は面白いデュエットがありますね。Superfly&トータス松本とか、安室奈美恵&平井堅とか。まぁ、言ってみれば企画色が強く、楽曲の内容よりもプロモーション的要素ばっかり前に出てしまうんですけど。でもTEE & AIは、個人的にシックリとくる組み合わせです。

山口 若い世代に響きそうですね。

伊藤 山口さんの若いって何歳までですか? 僕にも響きましたけど(笑)。

2人の声が作るマッタリとしてセンシティブな世界

伊藤 実は、前々からTEEの歌声・歌い方は好きで注目していました。彼の2ndシングルだった「ベイビー・アイラブユー」で、多くの人が、これ誰が歌ってんの? と思ったように、僕も気になったし、最近だとNTTドコモのCMソングだった「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」はサビよりも彼のAメロの歌い出しが衝撃的に印象的だった。

山口 TEEは、声に圧倒的な個性がありますね。ドコモのCMも音楽が耳に貼りつく感じでしたね。

伊藤 AIとの組み合わせもいい感じ。2人の声がマッタリとしていてセンシティブな世界を作っている。カラオケ離れっていわれる今だけど、歌に自信のある“奴ら”が歌いたいデュエット・ソングになってます。

山口 若手実力派の組み合わせでもありますね。歌詞の世界はどんな風に受け止めましたか?

伊藤 そうですね。なんとなく2人の歌いあげる会話から、海を跨いだ距離感、命ある限り叶うことのない恋愛を感じましたね。
 瞬きを忘れた虚ろな瞳をした男は、綱渡りでもしている様な足取りで夜を歩く。マンハッタンの42番街から47番街の間を阿弥陀籤をなぞるように歩く。時折、ストレンジャーたちが男に声をかける。それはポン引きであったり、ドラッグディーラーであったりの類で、残りは地べたに座り込んだホームレスがダイムとペニーの入った紙カップを鳴らしながら、言葉にならない呻きをあげる。男はどの言葉にも振り返ることなく歩きつづける。ブロードウェイの方から微かに聴こえる雑踏は、まるで「ここでは、お前のことなんて誰も知らないし、気にも留めないんだ」という風に男を見下ろす。悲しい色をした壁に溶け込んだ男は、色を失ってしまった、歌を失ってしまった、恋を失ってしまった。なぜなら“街で唯一この男を知る女”が去ってしまったから。いま男は、街に溶け込むように歩く。そしてアムステルダム・アヴェニューを北に消えてゆく。

山口 今回の「妄想分析」では、ニューヨークのミッドタウンからアッパーウエストに向かうんですね。あの辺りは僕も好きですよ。

TEE & AI「Let it be」
ユニバーサル ミュージック 2014年7月30日発売
1,000円(税抜)
■国体に6度出場した元ボクサーというユニークな経歴を持つTEEは、2010年にメジャーデビューを果たす。「Story」の大ヒットにより紅白歌合戦にも出場したAIとはかねてより姉弟のように仲がよく、今回のコラボでは長年の夢を叶えたという。
■「Let it be」作詞/TEE、AI 作曲/TEE、AI、UTA、Ryosuke Imai 編曲/UTA、Ryosuke Imai
■オフィシャルサイトURL 
TEE http://www.tee-web.jp/top/
AI http://www.aimusic-ai.tv/

【動画サイト】
「Let it be」

URL http://www.youtube.com/watch?v=8UjKYPWDNcU

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2014.07.12(土)
文=山口哲一、伊藤涼