リリック・ソプラノにとってはいつか絶対に歌いたい役

清水知子(しみずともこ)
1992年『フィガロの結婚』の伯爵夫人でオペラデビュー。その後『コジ・ファン・トゥッテ』のデスピーナ、フィオルディリージ、『魔笛』のパパゲーナなどを演じる。2000年よりイタリアに留学。05年3月、静岡県民オペラで『蝶々夫人』に初出演し、タイトルロールを演じる。07年11月には藤原歌劇団の『蝶々夫人』でも同じ役を務め、好評を博す。

――『蝶々夫人』の蝶々さんは15歳の少女の役ですが、声楽的には声が成熟しないと歌えない大変な役です。

清水 私が最初に蝶々さんを歌ったのは静岡の県民オペラでした。そのお話をいただいたときはまだ声が軽かったのでとても迷いましたが、イタリアの先生に相談して「あなたにはリリック(・ソプラノ/美しくやわらかな声質で、長いレガートを描ける広がりのある明るめの声)の要素もあるから出来るはずだ」と言っていただき、初めて挑戦したんです。最初は夢みたいでしたね……死ぬまでに一度は歌ってみたい、とつねづね言っていた役でしたから。やってみたら大変でしたけど(笑)。蝶々さんの15歳から18歳までを演じるので、オペラ中では少女、女性、母親を表さなければいけないのです。ヒロインの短い人生の中で色々な感情を表現する難しさを実感しましたね。

山口 私が最初に歌ったのはイタリアのボローニャ大学のアブシダーレホールでした。イタリアの声楽の先生からは「まだ早い」と言われて……でも私もリリックですので、将来的には歌っていくレパートリーになると思い、「是非やってみたい」とマエストラにお願いして歌ったんです。最初は暗譜が大変で……歌いながら「まだまだあるんだ」と(笑)。日本の童謡や古い歌がたくさん出てくるので、耳になじみやすいのが救いでした。

佐藤 私も初めての蝶々さんは海外で、スペインのコンクールで受賞したとき、副賞としてスペインでのオペラデビューのお話をいただいたんです。私からどのオペラをやるか指定できず、日本人だし……ということもあってか(笑)、このオペラを歌うことになったんですね。私もリリコ(リリック)でしたので、蝶々さんはやってみたい役でしたが、キャストが全員スペイン人で、言葉が通じないのが不安でした。イタリア人指揮者と、スズキ役のメッゾの鳥木弥生さんに心の支えになっていただきました。

粟國安彦氏による日本の美を大切にした演出は30年以上も引き継がれている。

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2014.06.25(水)
文=小田島久恵
撮影=鈴木七絵