風と太陽で作るミネラルたっぷりの天然塩

 豊かな海と明るい太陽に恵まれた天草は、オリーブだけでなく塩作りにも適した土地。各地で天然塩が作られ、塩は島を代表する特産品にもなっている。

 野生イルカも暮らす美しい海が眼前に広がる通詞島で、完全天日塩作りに打ち込んでいるのは、「自然食品研究会」の木口孝さん。その塩作りの手順は、古代を思わせるほどナチュラルかつアナログ。まず、目の前の海からポンプで組み上げた海水を、櫓の中で太陽と風の力を利用して循環させ、濃い塩水を作る(これが塩の素)。これをビニールハウスの中で結晶化させ(夏なら約2~3週間、冬なら1~2か月)、ようやく塩が完成する。

目の前の海から汲み上げた海水を、高さ6メートル、横幅20メートルの櫓で循環させながら、塩分濃度を上げていく。
塩分濃度が高まった海水は、ハウスの中へ。太陽の熱でゆっくりと蒸発させ、結晶化させる。

 できあがった塩は、熱をいっさい加えていないため、粒が大きいのが特徴。さらに、湿度の高いところに置いても固まりにくく、ずっとサラサラ感が保てるのだそう。味見してみると、しょっぱ辛さがなく、まろやかで優しい。これぞ、海の生命が凝縮したおいしさ。

ブランド名は「はやさき」。こだわりの凄みを感じさせないイルカデザインのパッケージが、さりげなくてかっこいい。

「私たちの毎日の食生活に塩は欠かせません。最近は高血圧になるからと塩分を敬遠する傾向にあるけれど、ミネラル豊富な塩は身体に必要なもの。天然塩は、海中にあるたくさんのミネラルを含んでいます」と木口さん。こだわりの逸品は、おいしいだけでなく、ヘルシーでもあるのだ。

素潜り漁が行なわれる豊かな海と、漁師町らしい風景。散歩がてら、通詞島をのんびり歩いてみては?

海のミネラル成分そのままの天然塩

 天草の南西部、珊瑚が多く棲息する海に面した大江の集落。「天草塩の会」の松本明生さんは、ここで20年以上も塩を作り続けている。作っている塩は2タイプ。ひとつは、濃縮した海水をハウスに入れて結晶化させた天日塩。もうひとつは、濃縮した海水を鉄釜に入れ、薪で炊き上げる煎熬(せんごう)塩。成分はどちらも同じ、“海そのもの”。

海から汲み上げた海水を、風と太陽の力を利用して濃縮する。その後の工程の違いで2タイプの塩が生まれる。

 塩水が減っては足し、減っては足して、煮詰めること1週間。その間は、朝から晩までずっと釜の前で火の番をしなくてはならない。根気のいる作業だが、少量をゆっくり炊くことで、ミネラル豊富な塩ができあがる。

薪を使って釜炊きをする小屋。この小屋も松本さんの手作り。

 松本さんは徳島の出身。伊豆大島で自然塩復活運動にたずさわった後、塩作りの理想郷を探し歩き、天草へたどり着いたという。「きれいな海水を使って、海のミネラル成分そのままの天然塩を作りたかったんです。私たちは自分自身の体の中に、母なる海を持っている。それは、人間の血液や体液の成分と、海の成分は似ていることからも分かります」と松本さん。達人の塩哲学は、深い。

一緒に火の番をしているのは、いつの間にか住み着いてしまったワンコ。
その作り方を知れば、「小さな海」というネーミングに深く納得。

 完成した塩は、海水をそのまま結晶させたから、その名も「小さな海」。赤いラベルが釜炊きした塩、青いラベルが天日塩。青ラベルは結晶が大きいため味はややマイルドだが、どちらもほのかな苦味や甘さを含んだ風味が特徴だ。天草の土産物店や物産市場で購入できるほか、電話注文による発送も行っている。

自然食品研究会
所在地 熊本県天草市五和町二江106
電話番号 0969-33-0610
URL http://hayasaki-shio.sakura.ne.jp/

天草塩の会
所在地 熊本県天草市天草町大江6438
電話番号 0969-42-5477

協力:熊本県天草市一般社団法人 天草宝島観光協会(天草観光ガイド「島旅」 http://www.t-island.jp/ )

2014.06.27(金)
文=芹澤和美