イスタンブールのフードシーンを牽引する
注目の女性シェフがオープンした小さな店

愛情をたっぷり注いだレストランメニュー

小さいけれど、どこかほっとする店内。友達のおうちでくつろいでいるかのごとく。

 お菓子やパンが並ぶカウンターの奥に進んで階段を数段降りるとそこは、小さなレストランエリアだ。といってもオープンキッチンと大テーブルが2つあるだけ。キッチン前のカウンターには15種ほどの野菜系前菜のビュッフェが並び、キッチン内では若い女子シェフたちがあれやこれやと準備に追われている。壁にあるガラスの板にはその日のメニューがマジックで書き込まれていて、肉から魚、野菜からスイーツまで、種類は意外と豊富だ。

スズキのオーブン焼きとルッコラのサラダ(27トルコリラ／約1,300円)。単純なのに絶妙な美味しさがあるのは、きっとディデムの腕によるところ。

 小さなお店ながらも料理はマヤに勝るとも劣らない内容だ。例えばスズキのオーブン焼きなど、焼き具合が抜群でほっくりと舌にとろける塩梅(……そういえば、マヤでも魚や肉の焼き具合の絶妙さには唸ったものだった)。添えられているルッコラと赤カブのスライスというシンプルなサラダも、食材の良さが反映され優しい味に調えられている。料理で使われているヨーグルトやアイスクリームは自家製で、とりわけミルク・アイスクリームの濃厚なこってり味はおすすめだ。チャイも、他店にあるような煮えたぎった苦いチャイとは異なり、ほのかに香る茶葉がミックスされている上品な味わい。ディデムの、料理に対する愛情をそこかしこに感じるお店である。

人気の自家製アイスクリーム。下はベルガモット入りチョコレートアイス。あっさりした甘さが大人の味。

 結局、オープンキッチンのある事務所で仕事をするのではなく、グラムとマヤを行ったり来たりする生活になったというディデム。それでも、朝早くからグラムでお菓子やパンの下ごしらえをしているというから、たぶん小さい時からの夢は実現されているのだろう。

文・撮影＝安尾亜紀