名演出家デフロによる新制作はギリシア悲劇を思わせる

こちらもまた『道化師』の装置図。このオペラが初演されたのは1892年。ミラノのダル・ヴェルメ劇場において、後の巨匠アルトゥーロ・トスカニーニがタクトを振った。

『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『道化師』の二本立ての上演は昔から人気が高く、70年代のオペラ映画も含め色々なタイプの演出があるけれど、この新国立劇場のプロダクションでは、ベルギー出身の名演出家、ジルベール・デフロが「ギリシア悲劇を思わせる」空間を効果的に使った舞台を作り上げる。

 制作時のインタビューでデフロ氏は「ギリシア悲劇の神にあたるのが、劇に登場する貧しい人々なのです」と語っていて、いにしえの円形劇場を囲んでドラマに心奪われていた古代の観客と、現代の観客を結びつけるようなマジックを見せてくれるらしいわ。

 確かに、嫉妬のあまり、愛するもののすべてを失ってしまう『カヴァレリア・ルスティカーナ』のヒロインは、エウリピデスによるギリシア悲劇『メディア』ととても似ている……神々のかわりに庶民を主役にしたヴェリズモ(真実主義)・オペラが、再び伝説の世界と結びつくなんて、演出家の洞察力に驚いてしまいます。

 会場となる初台の新国立劇場は、4面の舞台をもつデラックスな構造で、1814席の客席よりも舞台の奥行のほうが深いという贅沢な空間。まさにオペラの神殿の名にふさわしい劇場で、専属の合唱団とオーケストラが、旬のスター歌手とともに冒険的なプロダクションを次々と上演しているのです。

 海外のオペラハウスの引っ越し公演の半分以下のチケット代で、充実したオペラを観られるということもあって、客層も比較的若いわ。休憩時間には、お洒落なホワイエにお寿司やスイーツの屋台も出店して、オペラ観劇の祝祭感を高めてくれます。

 それにしても、愛ってなんでこんなに苦しくて残酷なのか……嫉妬という魔物が引き起こす悲劇の二段重ねを凝視しつつ、忘れかけていた女の本能を思い出したいです。

新国立劇場オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』
URL  http://www.nntt.jac.go.jp/opera/cavalleria/
会場 新国立劇場 オペラパレス
日時 5月14日(水)19:00~
   5月17日(土)14:00~
   5月21日(水)19:00~
   5月24日(土)14:00~
   5月27日(火)14:00~
   5月30日(金)14:00~

小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。

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2014.05.10(土)
文=小田島久恵