金沢へ通う旅

金沢へ通う旅

金沢で茶の湯を習い
古都の魅力を味わい尽くす

 日本第3位の茶道人口を抱える石川県。その中心である金沢市は江戸時代以来、文化、工芸の豊かな土壌を育んできた。その街を味わい尽くすための「通う旅」、第1回のテーマは「茶の湯を習う」です。

京都をしのぐ茶の湯の都
金沢の歴史をたどる

稽古に使う茶碗は大樋焼。今回は十代長左衛門さんによる飴釉の作を使った。

 正月の賀詞交歓が一段落した頃、金沢の落ち着いた町並みを行き交う着物姿がぐっと増えるのは、その年初めて炉に釜を据え、茶会を行う初釜のシーズンだ。職業も背景もさまざまな亭主たちは、心づくしのもてなしで客を迎え、招かれた客たちもまた思い思いの装いで席に連なり、和やかに新春を言祝ぐ。

 観光客向けのサービスではなく、そこに住む人々の日常生活に茶の湯が根付いている土地らしく、住民が趣味として茶の湯を嗜む割合(総務省、平成23年)を見ると、石川県は全国でも3位(京都府は13位)。茶の湯というと、京都がそのメッカだと考えがちだが、なぜその京都を差しおいて、金沢が日本でも有数の茶の湯の都となったのだろう。

 話はいったん、戦国時代まで遡る。中国から招来された高価な絵や青磁の器を大広間にいくつも飾り、大人数の客を華やかにもてなした室町時代までのお茶は、応仁の乱によって京都が荒廃したことで衰退する。代わりに生まれたのが、簡素な方丈(一丈四方≒四畳半)程度の座敷で、中国や朝鮮半島製の貴重な道具に、和もの(日本製)の道具も採り入れ、少人数の知己を心からもてなすという、後のわび茶のスタイルだった。このスタイルを、奈良の僧侶・珠光、堺の豪商・武野紹鴎が発展させ、織田信長、豊臣秀吉と、二代にわたる天下人に茶頭として仕えた千利休にいたって、完成を見る。

左:金沢ではこんな街並みをよく見かける。茶屋街のひとつ、東山にて。
右:竹花入には凛とした椿。

茶碗は剣より強し?
百万石を守った文化の力

 利休からわび茶を学んだのが、加賀藩主前田家の初代、前田利家だ。やがて江戸に徳川幕府が成立すると、前田家は「加賀百万石」、正確には102万5千石の所領を治める大々名となる。そして文治の賢君として知られる5代藩主綱紀の時に、利休から4代目、裏千家の仙叟宗室(せんそうそうしつ)を、茶堂茶道具奉行として金沢へ迎えるのである。

 加賀藩には2代利長の頃から、武器や武具を製作、修理もする「御細工所」が城内に設けられていたように、先端のテクノロジーと芸術、両方の側面を持つ工芸を重視していた。さらに3代利常、5代綱紀は、江戸や京都など各地から学者や文化人、名工を招くことで、藩の経済的、文化的基盤を固めて「文化立国」をアピール、幕府への叛意がないことを示し続ける。社団法人日本工芸会「人口100万人あたりの日本伝統工芸展入選者数」、また公益社団法人日展「人口100万人あたりの日展入選者数」は、いずれも全国のなかで首位。文治の藩主たちの政策が今もなお「美術工芸王国」の面目を保ち続けていることがわかる。

 仙叟も加賀藩へ出仕するにあたって、茶人としての見識だけでなく、「工芸」を携えてきた。それが利休と共に樂茶碗を創り出した長次郎の家系、樂家の弟子だった土師長左衛門である。長左衛門は河北郡大樋村に窯を築き、仙叟の指導の下にこの地の土で茶陶を作り、樂焼の技法を加賀藩に伝えた。これを嚆矢として、現代まで十代にわたって続く「大樋焼」が、金沢の茶の湯の根幹を支えている。

左:名門「吉はし」の菓子には春の息吹が。
右:まだ寒い季節、やや広めの釜の口からあがる湯気も客への「ご馳走」だ。

 東山、主計(かずえ)町、卯辰山(うだつやま)麓、寺町台など古くからの町並みを、伝統的建造物群保存地区としてエリアごと保護し、その中で、茶の湯、茶道具が今を生きる文化として愛されている都市、金沢。2015年に北陸新幹線が開通することで、今後はアクセスが容易になるが、これまで首都圏から相対的に遠かったことで、他の観光地のように「踏み荒らされ」ていない、新鮮で清浄な空気がある。一方で現代的な感覚を保ちながら、滞在中は時間的にも空間的にも忙しない日常から隔絶された、エアポケット――というより「聖地」と呼ぶべきかもしれない――にいるような印象を受けるのだ。

 そんな遠くて近い街にテーマを持って通うのは、魅力的な旅のスタイルだ。特にそれが「茶の湯」ともなれば、歴史的文化的に深く掘り進めることも、衣食住にわたる広い領域を横断していくこともできる。今回はそんな「金沢×茶の湯」をテーマにした旅の形をご紹介しよう。

<次のページ> 由緒ある茶室においてコミュニケーションの作法を体感

2014.03.22(土)

文=橋本麻里
写真=久家靖秀

※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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