岡崎疎水では桜の季節になると十石舟が運航され、桜並木を船上から眺めることができます。南禅寺舟溜り乗船場から出て夷川ダムで折り返す往復で約25分(3キロメートル)のコースですが、ゆったりと桜を楽しむことができます。夜間はライトアップも行われるので、水面に映る桜との対比を楽しんでください。

 ところでこの岡崎疎水は、京都の小学生が必ず郷土史の授業で教わる重要な歴史遺産です。京都は幕末の「蛤御門の変」で戦場となり大火にも見舞われて荒廃しました。さらに首都が東京に移るなど衰退著しいなかで提唱されたのが岡崎疎水です。京都と琵琶湖をトンネルなどで結び、潅漑、水運、産業振興に役立てようというものですが、総工費が当時の京都市の年間予算の十数倍にものぼるという一大プロジェクトでした。

 第3代知事の北垣国道は、この計画の主任技師になんと21歳の工部大学校(現在の東京大学)を卒業したばかりの田邉朔郎を抜擢します。田邉はアメリカを視察して得た最新知識を参考にするも、資材の製作から人材育成まで、外国人に頼らず日本初のオール日本でやり遂げました。特に水力発電所の建設は、京都に日本初の電車を走らせ、近代工業の発展を促すなど、今日の京都の発展の礎となりました。

 現在その歴史を踏まえて、世界遺産に登録しようとの機運があります。水運こそなくなりましたが、当時日本初で世界でも2番目の装置、水力発電所は現役で働いておりますし、水道水としてなくてはならない命の水です。

 桜は南禅寺前の取水口から、鴨川までのすべてに植えられています。平安神宮大鳥居前の朱塗りの欄干の慶流橋あたりがハイライトでしょう。この朱塗りの欄干と桜をどう絡ませるかが大事です。慶流橋の西から分岐した白川沿いの桜が街並みに映えて見事です。

南禅寺舟溜りへのアクセス
交通手段 地下鉄「蹴上」駅下車徒歩7分。市バス「京都会館美術館前」下車徒歩10分。

 

小林禎弘
フォトグラファー。京都市生まれの京都市育ち。同志社大学を卒業後3年間の公務員を経て撮影の世界へ。雑誌、書籍、広告を舞台として、京都を中心に西日本を幅広くカバー。「撮影歴30年ですが、それくらいでは京都の事はまだまだわかりまへん」。

 

2014.03.09(日)
文・撮影=小林禎弘