南アフリカの歴史をリアルに体験するミュージアム

 長い獄中生活が決まった裁判で、マンデラ氏が最終陳述で口にしたのは、求刑に対する意見ではなく、演説だった。これは、同時に反アパルトヘイト闘争の宣言でもあった。演説はこう締めくくられている。「全ての人が調和し、平等な機会の下で暮らす民主的で自由な社会という理想を私は抱いてきた。この理想のために私は生き、この理想を実現したい。しかし必要とあらば、この理想のために、死ぬ覚悟もできている」

 マンデラ氏が獄中生活のうち18年間を過ごしたのは、ケープタウン沖のロベン島にある刑務所。この建物は「苦闘の大学」とも呼ばれている。その理由は、マンデラ氏と同様に政治犯としてここで長い年月を過ごした反アパルトヘイト運動の活動家たちが、ここで将来を構想し、学び、その後、この国を民主主義へと導いていったからだ。マンデラ氏自身も、獄中での最終月に南アフリカ大学より法学士号を取得している。

ケープタウンの沖合に浮かぶロベン島。反アパルトヘイトの活動家たちが政治犯として収容された刑務所がある(写真提供/南アフリカ観光局)

 ロベン島は現在、ユネスコの世界遺産に登録され、刑務所の建物は「ロベン島博物館」として一般公開されている。ケープタウンからはフェリーで約30分。多くの観光客が訪れるメジャーなスポットでもある。かつて重警備の監房だった場所は、元政治犯が案内し、当時の監禁生活を鮮明に話してくれることも。

見学者は、かつての監房を見ることができる(写真提供/南アフリカ観光局)

 人種差別の実態と、アパルトヘイト撤廃後の新しい南アフリカを教えてくれるのが、「アパルトヘイト博物館」だ。ここは、ただアパルトヘイト時代の資料を展示してあるだけではない。アパルトヘイトを疑似体験させる場所でもある。

 入り口は2つに分かれている。1つはWHITES(白人用)、もう1つはNON-WHITES(白人でない人用)。来訪者は、手渡されたチケットに記されたほうのゲートから入場する。もちろん、チケットは肌の色に関係なく、ランダムに振り分けられたものだ。館内の通路も鉄格子によって仕切られ、見る事ができる展示も、それぞれ違った視点となる。夫婦や恋人、友達同士で訪れた来訪者は、「差別」をリアルに体験しながら、館内を見学する。

 アパルトヘイト時代は、暮らすエリアも、駅のホームも、公共の施設も、すべて人種によって分けられていた。館内には当時の様子が鮮明なビデオや写真、実物展示などでわかりやすく展示され、撤廃にいたるまでの史実をしっかりと伝えている。ここは、南アフリカでもっとも重要で、見ごたえのある博物館といっても過言ではないだろう。

アパルトヘイトを分かりやすく展示した「アパルトヘイト博物館」(写真提供/南アフリカ観光局)

Robben Island Museum
所在地 Robben Island Cape Town
電話番号 +27-21-409-5100
URL http://www.robben-island.org.za/

Apartheid Museum
所在地 Cnr Northern Parkway & Gold Reef Roads, Ormonde, Johannesburg
電話番号 +27-11-309-4700
URL http://www.apartheidmuseum.org/

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2014.01.04(土)