───2010年12月1日(水)

 祝! はるまきがミルクを15㏄飲んだ。年末の忘年会ラッシュ(私の)に向けて、この調子でぐいぐい飲むようになってほしい。もしミルクで1日もつようになれば、私もぐいぐい飲めるのだ。ああ、酒よ。

 しゃぶり欲がすさまじいので、amazonで探してみたら出るわ出るわ 有象無象のしゃぶられ玩具

 まず目に入ったのが「なめられ太郎」。まるでいじめられっ子のあだ名だ。全員からなめられてるのにエヘヘ……エヘヘ……と笑っている、クラスに一人はいるタイプだ。

 非常に簡素な形の顔と胴と四肢で構成されているが、特筆すべきは頭部が乳首型になっていることである。まさになめられるために生まれてきた男・なめられ太郎。頭を変形させてまでなめられたい男・なめられ太郎。今日もamazonの倉庫でまだ見ぬ主人になめられる日を待っている。

 次に気になったのが「イカすカミカミ」。白いシリコンでできているイカ型の歯がためだ。イカは蝶ネクタイを締めて口笛を吹いている。なめられ太郎とは対照的に、人生をかなりなめている風情だ。パッケージには「嚙んだだけ頭も良くなる」と書いてある。ということは、居酒屋でするめを嚙んでいるオヤジ達は実は恐ろしくハイスペックな頭脳の持ち主だということか? いや、今から遅れを取り戻そうとしているのかもしれない。

───2010年12月3日(金)

 はるまき、ひざの上に座ってテレビを見るのが最近のお気に入り。野放図に見せ続けていたら海老蔵にばかりくわしくなってしまうので(世間は市川海老蔵が殴っただの殴られただので大盛り上がり)チャンネル選びは重要だ。夕方は一応、『お○○さんといっしょ』を一緒に見るのだが、あのおにいさんとおねえさんとかいう奇妙な存在についていくのがかなりつらい。まずおにいさんとおねえさんはいつも並んで一緒にいるのに、二人の関係性が見えてこない。不気味だ。二人とも異常に陽気だが、会話する時も目線は常にカメラを追っていて、お互い目を合わせることはほとんどない。昨日うっかりやってしまって気まずいのか。

 そんなおにいさんとおねえさんのまわりには20人ほどの幼児が配置されて、全然知らないような歌を聞かされ、手をぐるぐる回せだのハイハイしろだの命令されることに8割が心底うんざりしており、毎回全く盛り上がっていない。言われるままに無邪気に動く2割の子供がバカに見えてくる。こんな胡散臭い男女にのせられて、これからの人生大丈夫か。そんなことを思いつつも、はるまきは食い入るように見ているので、私も見ないわけにはいかない、『お○○さんといっしょ』。

───2010年12月4日(土)

 ベビーカーにはるまきを乗せて、3人で商店街を散歩した。某生協がやっているスーパーがあったので入ってみたら、試食係や鮮魚コーナーのおっちゃんおばちゃんの優しいこと優しいこと。何故か硬い表情のはるまきを「かわいいわ~」「何ヶ月?」「あら、こっち見てる」と数人が取り囲み愛でるわ愛でるわ、私達の口に試食の餅やら珍味やらを入れてくれるわで、ああこれが地域に根付くということ? このスーパーに通えばはるまきの成長をこの人達が見守ってくれるの? と心ときめき気を許した私は、別にここで買わなくてもいいちょっと割高の味噌と片栗粉をレジに持って行った。

 そこにいたのは珍味のように乾ききった(しかし味わい深そうではない)中年女性。会員かどうか聞いてきたので、よくわからぬまま会員ではないと伝えると珍味は、

「このスーパーは会員じゃないと買い物できないんですよ!」

 と小学校の委員長のように私を糾弾した。スーパーなのに! 会員じゃないと買い物できない! 驚天動地! 目の前が真っ暗になった私に珍味は続けた。

「……ですが、3回までならお試しで買い物できます。ここに住所と名前を書いて下さい」

 そこで味噌と片栗粉を突っ返せばいいものを、すっかり動転した私は言われるままに書きたくもない住所を書いた。展示会に行って高額な絵を買ってしまう人の心理がわかった。屈辱に頰を濡らし、右手に味噌左手に片栗粉を握りしめ(袋をくれなかった)呆然と歩いてきた私を見て、店の出口で待っていた夫も狼狽した。

 夫曰く、私がレジに立っている間はるまきが「アウアウ、アウアウアー!」と何かを熱く訴えていたのだそうだ。そう、はるまきには何もかもわかっていたのだ。試食係たちもグルだったことを見抜いていたから、にこりともしなかったのだ。

───2010年12月5日(日)

 はるまきはよく、夜中の授乳時にわざわざ晒(さら)した乳房を無視してきょろきょろする。そして、ある1点を見つめてにぱ~っと笑う。私の肩越しに宙を見ている時は守護霊、そのへんを適当に見ている時は浮遊霊を見ているのだと勝手に決めている。そしてにぱ~っとした直後に大抵吐く。きっと霊障だ。今日は浮遊霊だった。

───2010年12月6日(月)

ベビージムをもらった。

 ベビージムとは寝たきり乳児でも遊べるように設計された敷物で、さわるとカサカサ鳴ったりビラビラしたりする飾りが敷物に仕込まれていて、寝たきり乳児の真上におもちゃをブラ下げるアーチが付いていて、蹴ると音楽が流れるパッドまで装備されている至れり尽くせりの代物だ。「鮮やかな色遣いで目に刺激を与え、脳の発育を促します!」とかいう理由で、常軌を逸した配色になっている。

 この「目に刺激→脳の発育」みたいな文言は赤子用品の至るところで目にするが、本当にそううまくいくのだろうか。刺激が強すぎて死んだりしないだろうか。一抹の不安を覚えつつはるまきをベビージムの中に設置してみたところ、「ちょ! な! なにこれ! うは! 超楽しいんですけど!? マジやばい! 人生マジやばい!」みたいなテンションでパッドを蹴りまくり、カサカサをカサカサしまくり、ずりあがり寿を連発して何度も敷物からはみ出し、興奮のあまり口から乳を噴射し顔と頭がびしょびしょになっていた。楽しそうで何よりだ。