危険な伝統主義者が描く少女たちの姿態

「美しい日々」(1944-46) Courtesy of Hirshhorn Museum, Smithsonian Institution (C) Balthus

 孤高の画家とも危険な伝統主義者とも評されるバルテュスは、抽象主義やシュルレアリスムなどのアヴァンギャルドが主流を占めた時代に、古典的なリアリズムの手法を貫き通した。ルネサンス以来の西洋絵画の伝統を踏まえた空間構成や人物の造形からは、マサッチオやピエロ・デラ・フランチェスカへの深い傾倒を見ることができる。

 そのいっぽうで、バルテュスが描き出す世界はしばしばスキャンダラスな好奇の目で迎えられた。彼が好んで画面に登場させたのは、イノセンスと性的な目覚めの狭間にある前思春期の少女たちだった。エロティックな衝動とそれを禁じる道徳的圧力の間で未成熟な身体を硬直させる少女たち。そしてその傍らには、画家自身の象徴である猫の姿が描かれた。

自画像の「猫の王」(1935) Fondation Balthus, Switzerland (C) Balthus

 今回のメトロポリタンの回顧展は、バルテュスの長いキャリアのなかでも最も充実した時期に当たる1930年代半ばから50年代の作品を中心に絵画34点とドローイングで構成されている。なかでも「夢見るテレーズ」や「美しい日々」といった少女をモチーフとした作品には、バルテュスの危険な魅力がよく現れている。また猫のモチーフに関しては、10代のときにペットの愛猫を描いた連作ドローイングの「ミツ」に始まる「自己の投影としての猫」というテーマが興味深い。

 寡作で知られる作家だけに、代表作をまとめて見られる機会は欧米でも決して多くない。時代に背を向けることで、時代を超えた独自の芸術を生み出そうとしたバルテュス。その奥深い世界に触れるには、またとない機会と言えそうだ。

「バルテュス:猫と少女たちー絵画と挑発」
開催期間 2013年9月25日~2014年1月12日
開催場所 メトロポリタン・ミュージアム(ニューヨーク)
URL www.metmuseum.org/

鈴木布美子 (すずき ふみこ)
ジャーナリスト。80年代後半から映画批評、インタビューを数多く手掛ける。近年は主に現代アートや建築の分野で活動している。

Column

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2013.11.30(土)