同じく福岡出身の椎名林檎とまさにイメージが重なる

山口 ジャニーズ・エンタテイメントのプロデューサー出身で、ポップスど真ん中の伊藤さんが、こういうバンドをピックアップするのは意外でした。Lastrumの新人ですよね。Lastrumといえば、日本のロックシーンの源流を持ち、近年、最も成功したバンド「SEKAI NO OWARI」も所属している。良い意味でアンダーグランドの匂いがあるインディーズレーベルであり、マネージメント事務所です。

伊藤 恥ずかしながら、今回“黒木渚”をピックアップするまでLastrumというレーベルを知らなかったんです。でも、これで心の髄に刻まれました(笑)。今話題の「SEKAI NO OWARI」も所属してるってことは、同レーベルから新人バンドとしてデビューをしている“黒木渚”も、既に注目されているんでしょうか?

山口 リサーチしてみると、発売1カ月前の時点で、積極的に黒木渚の「はさみ」について、ポジティブにブログで書いている人が50人くらいでした。少ない数字ではありません。熱いコメントも多くて、注目株ですね。ただ、インディーズでのリリースだし、ダイジェスト版でアップしているYouTubeの再生回数は、まだ1万回に届いていない。全国区とは言えない知名度です。そんなアーティストをピックアップするとは、よっぽど、刺さったでしょうね? どの辺が気になりましたか?

伊藤 YouTubeで「黒木渚 はさみ」を検索してみたら、何か言いたげな表情をした女の子の顔アップのジャケ写。その髪型がまさに鋏(はさみ)のイメージ。しかも、彼女の顔のど真ん中にキリトリ線があって、これから鋏で切られようとしているんですよ。「はさみ」と言う曲タイトルは珍しいけど、別になんてことない言葉じゃないですか。でも、このジャケから「はさみ」が意味しているのは“道具”というより“武器”なんだと感じさせられ「あぁ~こっち系かぁ」と(笑)。音を聴く前の黒木渚の印象は“怨歌バンド”か“新宿系”でした。

山口 “新宿系”って、椎名林檎がデビューした頃のキャッチコピーでしたね。そう言えば、椎名林檎も福岡出身です。イメージ的には重なるところはありませんか?

伊藤 まさに椎名林檎のフォロワーという印象ですよ。

冒頭の28秒で黒木渚の世界へと引き込まれてしまう

山口 新人アーティストがアイデンティティを確立していくにあたっては、ビジュアルのインパクトは大切ですよね。音の印象はいかがでしたか?

伊藤 「はさみ」を聴いてみると、極々少数音だけのピアノとギターの優しいイントロに割り込んでくるのは、心を閉ざしてしまいそうな少女の声。「身を守るすべを知らなくて 引き出しのはさみを取り出した」と歌いだすと、まるでその少女が創造した“殺人現場”に引き込まれたような感じ。28秒で、まんまと黒木渚の世界に引き込まれましたね。

山口 28秒か。ポップスの成功方程式の一つに30秒以内にインパクトを与える事というのがあると言いますが、この冒頭は、引き込まれてしまう力がありますね。

伊藤 そして、Bメロでは「あなたに(はさみを)向ける勇気は無いが 気休め程度になるだろう」と“殺人”はあっさりと否定されてしまうんですが、ここまでの歌詞の流れは素晴らしいですね。この世界観の詞にキャッチーという言葉は似合いませんが、オーディエンスの心拍数を上げるようなサプライズが秀逸、この曲の理想的な6行プロローグだと思います。

山口 同感です。冒頭から6行の流れは、歌詞ならではの、強い“つかみ“ですね。

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2013.09.27(金)