文豪ディケンズの小説「二都物語」をミュージカル化した「二都物語」で、主人公のシドニー・カートンを演じる井上芳雄。“ミュージカル界のプリンス”の異名を持つ彼が、前回に引き続き自身のキャリアを振り返る第2回では、初のタイトルロールを飾った「モーツァルト!」での苦悩や、新ユニット「StarS」について語ってもらった。

大学卒業を経て、見えてきたもの

――前回お話しいただいたように、井上さんはミュージカル俳優を目指して、小学生のときから十年近くも勉強され、東京芸大在学中の2000年にミュージカル「エリザベート」でデビューを果たします。華々しいデビューを果たしたことで、将来的にミュージカル俳優を続けていくことを意識したのでしょうか?

 じつは当時はこれでダメだったら大学に戻ればいいか、とも思っていましたね。でも、次々とお仕事をいただけるようになり、休学しながらも6年かけて、大学をなんとか卒業したんです。そして、二足のわらじじゃなくなった瞬間、社会人になっていた。そのとき「自分にはこれ(ミュージカル)しかない」と思えたんです。でも、卒業記念のソロコンサートで、卒業証書を持ちながらサンバで踊ったときには、まだ自覚していませんでしたね(笑)。

――ちなみに、大学卒業を機に「プリンス卒業」みたいな思いはあったのでしょうか?

 確かに王子様的な役ばかりやっていても、役者としてはあまりに需要がないんじゃないかと危機感は覚えていました。世間というのは、一個いいと言われるものがあれば、みなさんそれを望まれるし、そのイメージで仕事もくださるんです。それはそれで有り難いと思うんですが、それだけだとこの仕事は続かないんじゃないか、という気持ちが強かったです。でも、13年経った今でも「プリンス」って言われているんですけどね(笑)。

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2013.07.26(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida