あまたの作家、アーティスト、BL好き女子たちに愛されてきた萌え絵画「聖セバスチャン」についての連載第3回。聖職者たちが発注し、男たちが教会の中で愛でていた「宗教画」が女性信者たちにも思わぬ大人気となり……いかに変遷を遂げたのか。欧米のBL事情に詳しい美術研究家・岩渕潤子さんが考察します。

何本もの矢でつらぬかれた美しい肉体

ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール 「聖イレーネに介抱される聖セバスチャン」 1649年 ルーヴル美術館所蔵

 なぜ聖セバスチャンが恐ろしい疫病、ペストの守護聖人として崇拝されるようになったのか。矢を抜いた傷跡がペストの黒斑と似ており、何本もの矢で射られても死ななかったという伝承から、「ペストでも死なない」というおまじない信仰へとつながったとされている。ペストの心配が無くなった現代では、若く美しい姿で描かれるセバスチャンは「スポーツ選手の守護聖人」へとその守備範囲を変えた。

 さて、聖セバスチャンが宗教画のモチーフとして人気を博する一方で、いかに讃美されるべき殉教者とはいえ、ほとんど全裸に近い姿で苦痛に身もだえる若い男性を描いた絵画が教会の目につくところに掲げられるのはまずい……と考える聖職者たちが出てきた。

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2013.07.06(土)