半年に一度の発表のたびに大きく報道され、お祭り騒ぎになる芥川賞・直木賞。その成り立ちから知られざるエピソードや文学史に残る名言に徹底的に迫ります! 今回は、文学史に残る名言&エピソードを紹介。

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太宰治 「逆行」
1935年度 上期 第1回芥川賞受賞ならず

刺す。そうも思った。大悪党だと思った(川端康成の選評に対して)

 候補にはなったが受賞を逃した太宰治について、選考委員の川端康成は、「作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった」と選評に書いた。「厭な雲」というのは、当時、太宰が腹膜炎の治療に使った麻薬性鎮痛剤の中毒になり、すさんだ生活を送っていたことを指していた。太宰は「実生活ではなく文学作品としての価値で判断すべきだ」と怒り、雑誌『文藝通信』に「川端康成へ」と呼び捨てで、「事実、私は憤怒に燃えた。幾夜も寝苦しい思いをした。(略)刺す。そうも思った。大悪党だと思った」という抗議文を投稿! しかし、当時は「一度候補になった作家は以降の候補にしない」という決まりがあり、太宰の芥川賞受賞の夢が叶うことはなかった。

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2013.05.05(日)
text:Yoshiko Usui
photographs:Mami Yamada / Bungeishunju

CREA 2013年5月号
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