きっとよい旅の記念になります
photographs:Pian Pang

 香港映画『花様年華』の中で、ヒロイン役のマギー・チャンがまとっていたチャイナドレス。スレンダーな身体にぴたっと張りつくような美しいドレス姿は、映像から目が離せなくなるような緊張感と、ため息が出るほどの妖艶な空気を漂わせていた。作品の中で何着も披露されるドレスは、1960年代に主流となっていた、襟が高く体にフィットしたタイプのもの。この襟の高さこそ、当時の香港を象徴するシンボルだ。文化大革命最中の中国では、チャイナドレスは西洋に媚びた服装とされ、批判の対象となっていた。批判を恐れて多くの女性がチャイナドレスを秘かに廃棄したなか、香港では、共産党支配から逃れてきた知識人や有閑階級の女性たちが、あえてチャイナドレスを着用したという。この頃に流行していたのが、襟の高いスタイルのものだ。

『花様年華』のチャイナドレス製作を担当したのは、1960年代創業の老舗テイラー「年華時装公司」。店のオーナーでありベテラン職人の梁清華さんが手がけるドレスは、今も多くの女性を魅了する。

中環にある小さな店。1960年代創業の店は、香港では老舗

 何百着ものチャイナドレスがところ狭しと並ぶ、「年華時装公司」。店内には梁さんの作業場もあって、まるで工房のような雰囲気だ。既製品も100着以上揃うが、香港まで来たのなら、ぜひオーダーメイドしたいもの。価格は3000香港ドル(約32000円)ぐらいから(もちろん、選ぶ布地にもよる)。布地選び、採寸、仮縫い、フィッティングまで要3~5日間、完成までにかかる時間はトータル2週間ほど。日本への郵送も有料でまかせることができる。

店内にずらりと並んだチャイナ服。布地や柄もさまざまでまるでミュージアムのよう
photographs:Pian Pang

 オーダーは布地選びから。布地は、豊富なサンプルから選ぶ。次は採寸。腕の長さや首回りをささっとメジャーで測り、最後にまとめてメモをする梁さんの手際のよさは、さすがベテラン職人だ。「袖を短めに」「ウエストに少し余裕をもたせたい」といった細かなリクエストにも応じてくれる。襟の高さなどに好みもあるので、雑誌の切り抜きなどを持参すればイメージが伝えやすい。

やさしい物腰の梁さんが、プロの目で、着る人にあったスタイルをアドバイスしてくれるので安心だ
photographs:Pian Pang

 既製品のプライスは、オーダーメイドの半額ほどで、お直しも有料で可能。サイズや布地が自分にぴったりのものが見つかった場合は、旅の記念にお得な既製品を購入するのもいい。60年代の女性たちが自由を主張してまとったチャイナドレス。そんなレトロなタイプのファッションを見つけるのも、香港旅行の楽しみのひとつだ。

年華時装公司 (LINVA TAILOR)
住所 中環閣麟街38号
電話 +852-2544-2456
営業時間 9:30-18:30
定休日 日祝

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2012.12.19(水)