浪漫声・渋谷哲平の威力を
改めて思い知る

 「渋谷といえば」と問われ「すばる」でも「109」でも「ハロウィン」でもなく、迷いなく「哲平」と答えたあなたは「レッツゴーヤング」黄金期世代。名曲「Deep」(作詞/松本隆 作曲/都倉俊一)を、

 ♪ディープディープ青い海うみうみ!

 とコーラス含め己で歌い、ブレスのタイミングを逃し酸欠になったにもかかわらず、続けて太川陽介の「Lui Lui」も振りつきで歌わねば気が済まないという症状に苦しむ方も多いと聞く。

 そう。それほどレッツヤンメンバーの歌のすり込み威力はハンパではないのだ。

 早速渋谷哲平のベスト盤を聞いてみると、これが背筋が伸びるほどのクオリティ!

 前情報の時点で「Deep」、そして「わが青春のアルカディア」のサビ「宇宙よー!」だけでCD代の元は取れると踏んでいたが、いやもうそれ以上であった。

 奇跡の捨て曲ナッシング! 嗚呼なぜ当時、もっと彼を追っかけなかったのか私!

 とにかく凄まじくエエ声なのだ。挫折を知る前の真っ直ぐな青年の主張。「ヤング・セーラーマン」なんて汚れきった己の心を反省したくなるほど爽やかだし、「ジンギスカン」のカバーはマジでモンゴルの荒野が見えた。

 空、海、宇宙を漢の魂の舞台に変えてしまうヒーロー声。ところがなぜか恋愛ソングを歌うと「ピュア過ぎてこじらせてる男」的になるのも萌えポイントなのだ!

 例えると、キスどころか手をつなぐのに2年くらい時間をかける男の声である。

 恋人が業を煮やし「今夜は帰りたくない」と言ったとて、自分の部屋やホテルを素通りし車で一晩かけて遠くの海に連れて行き「さあ朝日が昇る。一緒に拝もう」と笑顔で言い放つ、そんな男の声である。

 とてもいい意味で、汚れなき理想を抱く青春バカの声である!

 歌声は西城秀樹級のセクシーさがあるのだが、そこはかとなく漂う森田健作風味。そのバランスが絶妙で萌える。恋なんてケッ愛なんてペッという草食系の方はぜひ渋谷哲平の歌を聴いてほしい。

「彼にならセーターを編んでもいい」

 と、純愛妄想を広げられることをお約束しよう!

2019.04.20(土)
文・撮影=田中 稲
画像=文藝春秋