Vol.025 夢 with You|久保田利伸

六本木スクエアビルから
愛をこめて

 こんにちは。デューダ子こと、CREA WEB編集長のヤングです。

 CREA2019年4月号の特集は「春こそ、とことんスキンケア。」

CREAは例年、4月号と10月号において美容特集を組んでいる。次の9月に出る特集のタイトルは「秋こそ、とっとこハム太郎。」でどうだろうと雑誌の方のCREA編集長にメールで提案してみたが、2週間経つ今も返事はない。

 素晴らしいコピーである。何より「とことん」が秀抜である。

 80年代から90年代初頭にかけてのバブル景気に沸く東京において、夜の街へと遊びに繰り出すための先立つ金も、同行してくれるような気の利いた友達もなく、とりたてて何もやることがなく深夜のテレビをボーッと眺めるという大学生活を漫然と送っていた筆者のような当時の若者にとって、「とことん」という言葉は、とあるCMにダイレクトに接続されている。

 そう、「カラオケGSスタジオ」のCMである。

 まずは、今はなき六本木スクエアビルの外観が映し出され、ギュウィ~ンというやけに派手でありながら今聴くと悲しいほどにチープなシンセのフレーズの後、歌が始まる。

 ♪とっことーんひとりの女~ 愛するのが男~

 昭和臭濃厚なムード歌謡をズンドコ感あふれるオールディーズのリズムにのせた歌が流れる中、稲川素子事務所所属である蓋然性が相当に高い外国人男女がカラオケボックスの中で――あえてこの死語を使うが――ノリノリで盛り上がっている。

 「ケントス」的世界観をいい湯加減な心持ちで咀嚼したなら、きっとこの15秒に結実することであろう。特にテレビ東京でしょっちゅう流れていたように記憶している。

 この映像はいまだに、自らその場に居合わせることのできなかった都会の夜の原風景の一方の雄として、40代後半に至るまで筆者の脳裏にしつこくこびりついている(もうひとつが、バニーガールが登場する「エスカイヤクラブ」のCMだ)。

GSスタジオが入っていたスクエアビルは2007年に六本木から姿を消したが、現在、六本木ヒルズ森タワーには、略称GSことゴールドマン・サックス日本法人が入居している。六本木からGSの灯は消えていない! ということで、俺は六本木ヒルズを見上げるたびGSスタジオを思い出すのだ。

 そしてカットが変わり、その個室の入口の前で、この店の経営を任されたタレントが「〇階社長の××です。GSスタジオで、(右手人差し指をこちらに向けながら)待ってます!」とCMを締める。

 そのタレントのひとりが、黒沢博である。前述のCMソングも、彼が歌っている。

 一般には、82年に「3年目の浮気」で大ヒットを飛ばした男女デュオ、ヒロシ&キーボーの片割れとしてもっぱら認知されていることだろう。

2019.03.28(木)
文・撮影=ヤング
写真=下井草 秀、文藝春秋