近所に欲しくなる
映画愛と人情にあふれた名画座

 かすみ座は〈霞町〉にある〈大してはやらない古びた映画館〉だ。

 ある雨の日に、かすみ座の建物の前で行き倒れていた青年を、映写技師のトーワこと十和が助けてあげた。トーワは青年を、名前の代わりに〈もぎり〉と呼ぶ。

 かすみ座で雑務をしてもらい、寝食も共にする。ふたりで一緒に映画館を切り盛りしている姿はそれなりに充実していそう。

 〈もぎり〉は記憶喪失になっていて、自分のことはひとつも覚えていない上に、どうも電車に乗るなどの社会生活のあれこれもかなり忘れている風。

 だが、実は特技があって、ゴジラ映画のことを聞かれれば〈三十作あるよ〉とつらつらとタイトルを並べられるし、〈博打で身を滅ぼす映画キャラ〉を聞かれればこちらもすらすら答えてしまう。脳内はさしずめ映画のデータベース。

 トーワと〈もぎり〉のふたりが、町や人に起きる小さなピンチにひと肌脱いで解決する展開はシンプルだが温かく、この先も楽しみだ。

『明日、シネマかすみ座で』(既刊1巻)

かすみ座には町の人のための上映会の習慣がある。廃業寸前の町の銭湯を立て直す奮闘と重ねて、伊丹十三監督の潰れかけたラーメン屋を再建する映画『タンポポ』。トーワの幼なじみの渚の初恋の思い出から連想した映画『スタンド・バイ・ミー』など。〈もぎり〉の知識が役に立つ。

本郷地下 KADOKAWA 780円

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Column

男と女のマンガ道

男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!

2019.01.23(水)
文=三浦天紗子

CREA 2019年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

居心地のいい部屋。

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定価780円

好みや条件は人ぞれぞれでも、「このままずっとこもりたい……」と思えるような部屋だと、結構幸せな気がします。キーワードは「居心地のいい部屋」。お宅拝見からアイテム選びまで、新しい年を気持ちのいい部屋で迎えるヒントが詰まった1冊です。