ジャンルを超える創作者
イケムラレイコの全貌をここに

 油彩、水彩、彫刻、版画、写真、そして詩まで手がけ、作風もどんどん移り変わっていくのがイケムラレイコの創作だ。彼女は作品を「つくる」と言わず「産む」と表現する。

 産むという行為は、つくるよりも力強くありながら弱さを含み、また個人の営みを超えた何か大きな力の手助けがなければ成し得ないものだと、イケムラは捉えている。

 だから、産み出されるものがどのような形態をとるのか、どんなものになるのか、それが何を指し示すのか、本人にもよくわからないのだという。ただし世にあるもの、巻き起こる事象はすべて消え去っていく儚いものだから、なんとかかたちに留めたいとの切実な思いだけは、いつも確実にある。

 産み出されるものとしてあるイケムラの創作は、いつも時代の変化を鋭く嗅ぎ取る。たとえば1990年代には、どこまでも無垢な少女の姿が、頻繁に作品に現れるようになった。東日本大震災を経ると、どこと名指すこともできない、まるで黄泉の国に迷い込んだかのような風景が大きな画面を満たした。

 社会的な事象や世相を象徴するモチーフを直接表現することはないものの、そのときを生きる人たちの無意識の集合体や時代の気配を見事に掬い取っていることは、作品と対峙しているとよく伝わってくる。

 そんなイケムラが長年にわたり産み出してきた作品を、巨大な会場で一挙に観られる機会となるのが本展。時代を超えた創造の軌跡の数は、約210点に及ぶ。

 展示は「少女」「アマゾン」「地平線の広場」などと名付けられた16のテーマに分かれている。イケムラが探求してきたことが整理され、網羅してあるので、全体像を知るにはもってこいだ。

 イケムラは70年代に日本からスペインへと渡り、80年代にはドイツへ移り、その後はベルリンに活動拠点を据えて現在に至る。初期のドローイングや《カミカゼ》などの絵画作品と、近作《始原》、最新作《うねりの春》らを見比べてみれば、描法はずいぶん変化している。けれど通底するものは確実に感じられて、それがどんなものかと想像を巡らせながら会場を散策すれば、いつしかイケムラレイコという創作者の世界にどっぷり浸かって充足している自分に気づくのだった。

 通覧していると気づく、彼女はいつも、イメージや時代の背景が生成される途上を捉えんとしていることに。途上とは無限の可能性を含むこと。だからイケムラ作品に触れると、誰しも強く勇気づけられる。

『イケムラレイコ 土と星  Our Planet』

会場 国立新美術館(東京・六本木)
会期 2019年1月18日(金)~4月1日(月)
料金 一般 1,000円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/Ikemura2019/

2019.01.14(月)
文=山内宏泰

CREA 2019年2・3月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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