【BLはアーミッシュも題材にする】

 BL作品のいいところのひとつは、男子同士の恋愛を描くという軸さえ押さえていれば、作品の舞台や年代、職業……などと設定にかなり自由がきく場合が多いということです。

 裏社会の人物が切ない恋に落ちたり、ケモミミなどの想像上の異形の生物が主人公のSFなども当たり前で、これらの多彩なストーリーが一冊の雑誌に掲載されている場合も多く、たいへん読み応えがあります。また実験的な作品も多く、新しい分野に興味を惹かれるきっかけになったりして新鮮です。

 最近、おっ、これは新しい! と心ときめかせた作品をご紹介したいと思います。それが吾妻香夜さんの『ラムスプリンガの情景』。なんとアーミッシュの世界を舞台にしたBLです。アーミッシュとは、アメリカのドイツ系やペンシルバニア・ダッチ系移民の宗教集団で、移民当時の生活様式を堅持し、農耕や牧畜で生計を立て、自給自足生活をする人々のこと。「ラムスプリンガ」は、敬虔なキリスト教徒としてアーミッシュコミュニティに残るか、家族を捨て外の世界で生きるかを決めるための、俗世を体験する期間のことです。

 舞台は1980年代アメリカ。ブロードウェイでダンサーの夢に破れ、田舎の街でウエイター兼男娼として生活をしのいでいるオズは、ある日、バーに来たラムスプリンガ期の青年・テオと知り合う。世間知らずのテオの面倒をつい見てしまうオズは、怒ることも、疑うことも知らない純粋なテオに次第に癒され、お互いの気持ちは近づくが、やがてラムスプリンガの季節は終わりを告げる。ふたりが選択した結末に、心が温かい気持ちに満たされました。

『ラムスプリンガの情景』
(全1巻)

アーミッシュの若者が体験する10代の恋の季節を描いた美しい物語。恋に落ちる相手がNYで挫折したすれっからしのダンサーというのもツボです。途中に登場するアーミッシュの村の描写も素晴らしく、映画のような忘れ難い余韻を残す意欲作。
吾妻香夜 心交社 700円

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Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2019.01.06(日)
文=福田里香

CREA 2019年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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