長引く不況にもかかわらず、新規オープンのホテルが相次ぐバルセロナに、またひとつ新しいホテルが誕生した。

左:重厚な正面入口を抜けて明るい館内へ
右:中庭に面したロビー。中庭の壁は17世紀のもの

 旧市街の真ん中にオープンした「メルセールホテル・バルセロナ」は、5ツ星のなかでも最上級の「GL(グラン・ルホ)」である。バルセロナに限らずスペインでは歴史ある古い建物を改修してホテルにするケースが多く、このメルセールもそのひとつ。ただ、ほかのホテルと違うのは、オリジナルの建物の「歴史」の度合である。なんと、このホテル、最も古い部分は紀元1世紀、つまり今から2000年近く前の城壁を利用しているのだ。

オリジナルの梁を生かしたシンプルなベッドスペース

 当時のバルセロナはバルキノ(Barcino)と呼ばれ、周囲を城壁に囲まれたローマ帝国の植民都市であった。長い年月の間に城壁の西半分はほとんど姿を消してしまったが、東半分はまだかなりの部分が残っている。ホテルの一部になっているのは、4世紀ごろには80近くもあったという物見の塔の第28塔あたり。約2000年の間に、さまざまな時代の建物が城壁の一部を取り込む形で増築・改築されていったものだが、そのひとつをメルセールホテルグループが2003年に購入。当時はかなり傷んだ状態で、改修にはかなりの困難が伴ったようだ。考古学的・文化財的価値を損なわずに、最高級のコンフォートを求める5ツ星ホテルを作りたいと、プラド美術館の拡張建築でも知られるラファエル・モネオ氏に設計を依頼。カタルーニャ州文化財局とバルセロナ大学の専門家たちと協力しながら、「採算度外視」(オーナー弁)で4年の年月をかけ現在の姿に生まれ変わらせた。

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text:Miyuki Tsubota