主人公が自分で未来を選ぶ姿を
書きたかったんです

今月のオススメ本
『ダンデライオン』

 2019年10月21日、0時04分。31歳の下野蓮司は、暴漢に殴られて気を失う。そのことを、彼は20年前から知っていた。病院で目が覚めた時、彼の体の中に入っていたのは、野球の試合で打球が当たって昏倒した子どもの自分だった──。著者7年ぶりの長篇小説。
中田永一 小学館 1,500円

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 11歳の僕は、目が覚めたら大人になっていた─。中田永一の『ダンデライオン』は、著者初挑戦のタイムリープ小説だ。

「もともとは自分が監督する、低予算映画の脚本として書いていたものでした。発想としては、少年が自分の大人時代にタイムリープして、恋人だっていう女のひとに会ったら嬉しいんだろうか、困るんじゃないだろうか、と。シチュエーションコメディをやりたかったんです」

 だが、大人の下野蓮司の精神はどこへ行ったのか、という点に注目したことで構想が変化した。「将来の自分の恋人になる、女の子を救いに行く冒険譚は面白そうだな、と」。その結果、ミステリーの匂いが濃厚に漂い出した。

「脚本の時は、10年くらいしか時間をあけていませんでした。20年もあけてしまうと、美術にお金がかかりそうだと思ったからです(笑)。予算がかかるから削ぎ落とした部分を、小説では復活させたり、脚本では少ししか出てこない脇役のキャラを掘り下げてみたり。基本は主人公の一人称なんですが、ところどころに三人称の視点も挿入して“語り”の味付けをするのも楽しかったです」

 映像化という「縛り」が解けたことで、この物語が秘めていたポテンシャルを、書き手自身が発見していったのだ。11歳と31歳の「間」を描くパートも、ぐっと精度を上げた。

「もし自分に未来の記憶があったとしたら、例えば東日本大震災の前後にどんなことをするだろうかと考えました。事前に警鐘を鳴らすだろうけれど、どうやって“予言”を信じてもらったらいいのかが難しい。むしろ起こってしまった後に何ができるかが大事なのかな、と」

 やがて物語は、始まりの時空に辿り着く。実は「その先」に、真のミッションが開幕するのだ。

「ずっと“運命は決まっている”と思いながら生きてきた主人公が、自分で未来を選んで決断する姿を書きたかったんです。ただ、脚本ではサラッと書いていたものを、物足りないなと思ってかなり加筆しましたね。書き終えてみて思ったのは、もしこの脚本を本当に映画化していたら、穴だらけで大変だったな、と(笑)。小説にしていく過程で出てきた違和感や問題点を、ひとつひとつ潰していくことで、ミステリーとしても面白いものになった気がします」

 そして、恋物語としても。新たな恋愛小説の書き手として知られる中田永一の、新境地であり集大成でもある傑作だ。

中田永一(なかた えいいち)

1978年、福岡県生まれ。2008年『百瀬、こっちを向いて』で単行本デビュー。11年刊行の『くちびるに歌を』は「第六十一回小学館児童出版文化賞」受賞のほか、12年本屋大賞第四位入賞、映画化もされた。ほかに『私は存在が空気』など。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2018.12.09(日)
文=吉田大助

CREA 2018年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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