巨大ダム建設による
消滅の危機を超え世界遺産に

 入口の両脇に小さく立っていたのは、妻である王妃ネフェルタリ。ラムセス2世は7人ほどの王妃を抱えたが、第一王妃にして最愛の存在が、この“最も美しい女性”という名前をもつ、ネフェルタリだ。

 アブシンベルの大神殿から100メートルほど離れた場所に、彼女に捧げた小神殿も建てられている。こちらの正面の巨大彫像群はネフェルタリ像を2体のラムセス2世の像が挟んで守るようにして立っているのが印象的だ。

 そして注目したいのは、王と王妃がほぼ同じ大きさ、描かれているレリーフも対等の立場であることだろう。

 ちなみにラムセス2世はおよそ92歳まで生きながらえ、子供を100人以上も授かったという。アブシンベル神殿の正面には子供たちも数人、ラムセス2世の足元に彫られている。

 1979年に世界遺産に認定されたアブシンベル神殿を含む「アブシンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」は、かつてナイル川のアスワンハイダムの建設計画により、水面下に沈んでしまう危機に瀕していたことがある。

 ユネスコはこの地球の宝を救おうと呼びかけ、各国からの支援のもと、1963年から5年間かけて移築することに。

 1036個の細かいブロックに切断し、北へ64メートル、西へ110メートル移動後、再構築。正面の4体のラムセス2世像のうち、破損した1体の顔も移築前と同じ状態が維持されている。

2018.11.08(木)
文・撮影=古関千恵子