■「カルテット」

松たか子を起用した理由は?

──「カルテット」のキャスティングの話をしているとき、土井裕泰さん(プロデューサー・演出)と坂元さんは同時に「松たか子さん」と。坂元さんは「松さんと満島ひかりさん」とおっしゃったそうですね。松さんとお仕事してみたいと思った理由は?

坂元 松さんとは、もともと作詞家としてはおつき合いがあるんですけど、脚本家として仕事をしたことはなかったんです。

 僕は「こういうプランでこういう演技をしているんだろうなあ」ということが見えてしまうお芝居が苦手で、そういうのが少なければ少ないほど好きなんですけど、松さんからはそういう企みがまったく感じられない。どういうつもりでそういう芝居をしているのかが全然わかんない。意図もプランも理屈もわかんなくて、ただただ見てて面白いんですよね。

 松さんはあるときからテレビドラマに出なくなった印象がありました。ドラマをやらなくなっていく人はたくさんいるけど、連ドラを主な場所として書いている自分としては、いい役者さんが出てくれないのはすごく寂しいので、松さんに「ドラマも意外と楽しいね」って思ってもらたい一心で書いてました。とにかく気持ち良くお帰りいただこうと。

 日本一のコメディエンヌでもあると思っていたから、「松さんとコメディをやりたい」という思いもありましたね。

──坂元さん脚本ということで出てくれることになったんですか。

坂元 全然わかんないです。たぶん松さんは、僕が何なのか、どんな脚本を書くのかも知らなかったんじゃないかな。

 昔、僕が松さんの「明日、春が来たら」(松たか子のデビューシングル)の作詞をしたときに、ロサンゼルスで録音することになったんですよ。

 スタッフみんなで1カ月ぐらい行くことになって、全員でバスに乗って空港に着いたら、「坂元さん、坂元さん」ってカウンターに呼ばれて。僕のパスポートの期限が切れてたんです(笑)。

 そのとき松さんは19歳ぐらいで、僕は30歳ぐらい。松さんは「え、この人大人なのに……」って思ったらしいです(笑)。僕は遅れてロサンゼルスに到着して、無事に「明日、春が来たら」が完成いたしました(笑)。

──(笑) パスポートはうっかりしてたんですか。

坂元 JanとJulyを間違えてたんです(笑)。ちゃんと確認して「あ、大丈夫だ」と思ったのに、7月まであるかと思ったら、1月までだった。だから、松さんは「あのパスポート忘れた人だ」っていう目線でしか見てなかったと思います(笑)。

──「カルテット」の松さんはいかがでしたか?

坂元 やっぱり、何を考えてお芝居してるのかが全然わかんなかったです。

 すずめちゃん(満島ひかり)のお父さん(高橋源一郎)が亡くなったときの真紀さんの表情とか、今この人は何を思ってるんだろう? って、全然わからないんですよね。どういうプランなんでしょうね。それがなんともいえず面白いし、最高ですよね。

2018.10.26(金)
構成=上田智子