高校で留年してしまった理由は?

 しかし、この高いIQというものが現実の生活に役立つかというと、ほとんど役立たない。その証拠に私、慶應義塾高校では落第して、同じ学年を2度やり直しました。

 それは素行不良といった理由からではありません。私は割と早起きなものですから、毎日学校には遅刻もせずにちゃんと通って、出席日数などに関しても、何の問題もなかった。

 ですが、あまりにも数学とか物理とか、特に単位が大きい科目の点数が悪かった。一生懸命に勉強しても全く分からないという有様で、ほとんど0点。もちろん落第するわけですよ。

 というわけで、知能指数が役立つことはほぼなかったんですが、あったとすれば、教師をからかう時にいろいろと屁理屈をひねり出せることぐらい。まあ、IQが高いと、屁理屈は上手くなりますよ。

 そんな成績だから、慶應の大学に進むための推薦を受けるのは不可能に近かった。

 「この先どうするんだろうな」と不安がってた時に、神の思し召しとしか考えられない出来事が起こるんです。

 慶応義塾高校の先生の一人が、アルバイトで家庭教師をやってたんですが、その際の教え子が、高校でも教えている相手だった。それで、もうすぐ行われる期末試験の数学の答えを、なぜかうっかり教えちゃったんです。

 教えてもらった子も、黙って一人だけ得しておけばよかったのに、そいつは人間的にいいやつだったらしく、クラスの全員に答えを教えちゃった。

 そうしたら、あるクラスだけ、全員数学が100点なんです。さすがにこれはおかしいということで調べてみたら、例の先生が答えを漏らしていたということがバレまして。

 おかげで、不公平を避けるために、僕の学年の最後の期末試験の数学は、全員が満点ということになりました。これがなければ、僕は大学に進学することはできなかった。ギリギリだったんです。

2018.10.27(土)
構成=下井草 秀(文化デリック)
撮影=釜谷洋史