冷えている人の
9割近くはお腹が冷たい

●そもそも「冷え」とは何?

 「冷え」は、東洋医学で古くから注目されてきた大切なサインです。

 東洋医学では、身体には「気」と呼ばれるエネルギーが流れているという考え方をしています。それが滞ってめぐりが悪くなり、身体が冷える「冷え」は「万病の元」と言われています。

 ただ、私たち助産師は長い間「冷えを防ぎましょう」と妊婦さんに言ってきて、手ごたえも感じてきたものの、科学的な裏付けはありませんでした。西洋医学には、「冷え」という概念そのものが存在しないため、科学としては、まだこれからの分野なのです。

 でも、妊娠の分野では、深部体温を測定し、産科トラブルとの関係について調べた研究の報告が少しずつ出てきています。中村幸代先生(横浜市立大学)は、堀内成子先生(聖路加国際大学)たちと共同でおこなった研究で、妊娠後期に冷えがあると、早産が3.4倍も増えると報告しています。その他にも、冷えは倦怠感、おなかが張りやすい、頭痛、腰痛、イライラなどの悩みを増やし、お産を長引かせる傾向もあるとわかりました。

 西洋の女性は筋肉がついていて冷えに強いのですが、きゃしゃな日本女性は冷えの影響が大きく出てしまいます。

太陽のように明るくて優しい杉山富士子先生。
太陽のように明るくて優しい杉山富士子先生。

●だるい、頭痛、腰痛、イライラ……
 悩んでいる女性はとても多い

 助産院で皆さんにお話を聞いていると、現代は、体調を崩しやすい生活が「普通の生活」になってきているのではないでしょうか。例えば、長時間すわっている仕事をしている女性は、楽な仕事をしているようで、実は骨盤に負担がかかっているので生理痛や腰痛に悩むことになります。

 それでも、妊娠前は「仕事を片付けなければ」という気持ちの方が強いので、身体からの「無理をしていますよ」「休んでください」という声に耳を傾けることがなかなかできないですね。そこで助産院の妊婦健診では、産科学的な異常サインがないかをチェックしたあと、衣・食・住の話をして冷えない生活を覚えてもらうのです。

●自分の身体が冷えているかどうか
 わかる方法は?

 前述の中村先生は、自分で「私は冷え症」と思っている女性は、だいたい、本当に冷え症だと考えてよいとしています。女性の前額部深部温と足底部深部温の差を比較すると、「私は冷え症だ」と思っている女性の方が、「冷えていない」と思っている人よりも明らかに温度差が大きいことがわかったからです。冷えているという自覚がある人は本当に足の温度が低かったのです。

 ただ、冷えているのにその自覚がない人もいます。簡単な見分け方として「お腹を触ってみる」という方法があります。中村先生は、冷えている人は、9割近くがお腹が冷たいと報告しています。私たちも診察で女性たちのお腹には必ず触れますが、暑い季節でも、冷えがある人は、お腹を触ると明らかに冷たいです。

 冷え症の人は全体の半数くらいと一般的に言われていますが、私たち助産師の実感では、もっと多いような気がします。ただ、冷えている人も、ケアに取り組めばちゃんと、確実にお腹や手足が温かくなってきます。それがご自分でもわかると、ケアが楽しくなってきます。

 次回は、簡単にできる冷えとり養生法をお伝えします。


※1 助産師
厚生労働大臣の免許を受けた国家資格で、妊娠した女性のケアや分娩介助、新生児のケア、思春期教育、更年期の相談などを行う。おもな就労場所は病院・診療所だが助産所を開業することもできる。

杉山富士子先生(ファン助産院院長)

1944年、山梨県生まれ。OL時代を経て二児を出産したのち、37歳の時に助産師資格を取得。1984年、東京都杉並区の現在地にファン助産院を開設して、これまでに5,000人を超える赤ちゃんをとりあげる。