少しずつキャラが変わっていった

大野 2時間ドラマって、通常は犯人が逮捕されて終わりのパターンが王道ですけど、「家政婦は見た!」シリーズだけは全然問題を解決しないまま終わるんです。

速水 そうですね。逮捕劇ではない。

大野 市原悦子さんが「見いちゃった」って、当事者のところに行って「もうこんなところ、私、働くの嫌よ」って出ていくという。だから、次の日からまたきっとこの人たちは、不倫を続けるし、悪いことを続けるんです。

速水 だけど、そのほうが視聴者はカタルシスを感じたと。

大野 このシリーズの真の人気は、市原悦子さんが最後に啖呵を切るようになってから出たって言われています。4作目ぐらいからなんです。ちなみにその原型は「桃太郎侍」なんじゃないかって。

速水 「一つ、人の世の生き血をすすり」とかああいう感じですか?

大野 「桃太郎侍」って最初はただ悪党を成敗するだけで、鬼のお面をかぶったり、決め台詞を言ったりするようになるのは、ちょっとあとのシリーズ以降なんです。途中から変化するっていう意味では、家政婦シリーズの主人公って、第1作では悪女なんです。

速水 市原悦子さんも最初は自分のイメージとは違って躊躇したっていう。

大野 乗り気じゃなかったんです。それは原作がそうだったから。でも、みんながよく知る「家政婦は見た!」って、のほほんとしたおばさんっていう印象ですよね。

速水 猫と会話をしているイメージ。

大野 でも最初は毒気が強かったんです。最近の紀州のドンファン事件みたいな。

速水 あの事件でみんな「家政婦は見た!」だって思いましたよね。

大野 毒気が強かったのを市原悦子さんが「もうちょっと視聴者に愛されるようにしたら?」と言ってアイデアを加えていって、少しずつキャラを変えたんです。

速水 その「家政婦は見た!」も最終回を迎えたのが2008年だから、もう10年前。ちなみに「混浴露天風呂連続殺人」シリーズが終わった翌年ですね。

大野 これだけの人気シリーズになるとどう幕引きをするのかは難しい。市原さんにとってもライフワークになってましたし。いつしか家政婦なのに介護される側の年齢になってしまい、かつてのようにアクティブに行動できないということで、ご本人の希望もあり幕引きになったようです。

2018.10.20(土)
構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋