旅情サスペンスが流行った時代背景

大野 ちょうど時代的にも鉄道旅行が注目されていたんでしょう。『犬神家の一族』とか70年代に映画化された金田一耕助シリーズは、地方の田舎の殺人事件が題材じゃないですか。

速水 ミステリブームと地方ブームがあったから旅情サスペンスが流行った。

大野 同時代ですね。あと、1970年代はディスカバー・ジャパンの時代でもありました。「an・an」「non-no」といった女性向け雑誌が創刊されて、旅行の特集を組み始めた、「アンノン族」の時代。

速水 角川映画でいうと1980年代に入っても原田知世の『愛情物語』とかは国鉄の急行で北陸に行くというアンノン族の流れでしたね。そんな当時が国鉄の特急全盛期でしょう。

大野 国内を新幹線が縦断して、在来線と結びつくようになって国内旅行がスムーズにできるようになったんです。それと同時に映画やドラマが旅とタイアップされていく。

速水 80年代は新幹線が東北や新潟にも延びていきますね。

大野 あとこれからバブル経済に向かうという時代です。それと撮影機材も軽量化しました。ロケや撮影がフレキシブルにできるようになったんですね。

速水 80年代は国鉄のフルムーンパスという高齢者向けのキャンペーンがありましたよね。

大野 今にして思うと、さほど高齢者ではなかったんですけどね。足して88歳以上のカップル向けの割引乗車券なので。

速水 足して88歳だと中年か。フルムーンのキャンペーンCMの二谷英明、白川由美夫妻が探偵役の2時間ドラマもありましたよね。

大野 「フルムーン旅情ミステリー」(89~93年)ですね。ドラマは、国鉄がJRになったあとに作られてます。CMの初代は上原謙&高峰三枝子のコンビで、次が二谷夫妻でした。ちなみに原作もあって、最初の2作までは内田康夫先生です。

速水 タイアップだったんですよね。2人で新幹線旅行に行っては、事件に巻き込まれるって、JRは大丈夫だったんでしょうか?(笑)

大野 でも殺人事件がNGになると2時間ドラマは成立しないですし。

2018.10.11(木)
構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋